花押(かおう)

徳川美術館へ向かう道を歩いている途中、竹垣の網目越しに徳川園を眺めたところ、目に飛び込んできたのは紫色の桔梗の花。
「えっ、もう咲いているの?」
秋の花のイメージが強い桔梗ですが、花期は梅雨時から秋口までと長いのが特徴であることを、後で知りました。

桔梗★網目越しのショットです。遠い!

美術館は刀剣ブームの影響でしょうか、若い女性の来客も目立っています。
喫茶室は、例の鯰尾藤四郎セット(楊枝付き和菓子「鯰尾藤四郎」+抹茶)が良く売れているようです。

先日6/26付の<刀剣の「折紙」について>の記事で、画像の最後に記してあったのは「花押」。
花押★十代・本阿弥光室の花押

ちょっと気になり、「広辞苑」で調べたところ、詳しい説明がありました。

【花押】
「(花字の押字の意)署名の下に書く判。書判(かきはん)ともいい、中世には判・判形(はんぎょう)と称した。初めは名を楷書体で自著したが、次第に草書体で書いた草名(そうみょう)となり、さらに様式化したものが花押である。
・草名(例、信清)
・二合体(にごうたい)(名の2字の各一部分を組み合わせて草書体に作ったもの。例、頼朝の頼の「束」と朝の「月」とを合わせたもの)
・一字体(自己の名に関係なく、ある1字を選定して作ったもの。例、義政の、「慈」を作ったもの)
・別用体(名字と関係ない別の形を利用したもの。例、三好政康)
・明朝体(中国の明朝の字体式のもので、上下に線があるもの。安土桃山時代を経て江戸時代には武家は大部分この形をとった。例、家康
など。なお、身分の低いもの、無筆の物は、乂■のような簡単な形で花押に代用した。これを略押(りゃくおう)という。また平押ともいい禅僧などが用いた(例、沢庵)。(■に該当する文字がありません。σを左右反転させたような、下図の沢庵の花押を丸くしたような形のサインです)
鎌倉時代以降、花押の印章化が始まり、花押を版刻して墨を塗って押すものなどが現れ、次第にその数を増した。」

花押

今まで何気なく見ていた花押が、俄かに意味をもって目の前に現れた感があります。

知らないまま通り過ぎていた事柄も、ほんの少し知っただけで、また新たな魅力・輝きを放ち始めると云うことでしょうか。

「今がその時」とはよく云ったものです。

【追記】
日本国語大辞典には「花押」の<語誌>に次の記述がありました。

「中国では、文字を変体に崩すことを「押」といい、崩した形から「花」ともいっており、その字を、古く「花字」とも「押字」とも称したが、後に両方の表現を合わせて「花押」というようになった。」