重陽香

昨日は9月9日、陽数で最大の九が二つ重なる目出度い「重陽の節供」(菊の節供)の日でした。
尤も、旧暦の重陽の節供は、閏五月があった今年は10月28日と随分遅くなっています。

この時季に遊ぶ組香に「重陽香」があります。

◆香は四種
一として  二包で内一包試
二として  三包で内一包試
初三として 三包で無試
後三として 同断

◆聞き方
一、二の試みを聞いた後、出香九包を打ち交ぜて炷き出します。
三の香は無試なので、初めに出た方を初三とし、後に出た方を後三とします。

◆記録紙
記録紙の点数の上(中段)に、当りに応じて名目を記します。(複数の場合もあります)

一二の香三つとも当れば  燕
初三の香三つとも当れば  菊
後三の香三つとも当れば  雨
一の香ばかり当り二不当は 我宿
二の香ばかり当り一不当は 白露
初後三の香二つずつ当りは 幾代
全て当れば        重陽

記録を認め終って、
燕・菊・雨が多い時は、うしろの方(記の奥)に詩を書きます。
「燕知社日辞巣去 菊為重陽冒雨開」

我宿・白露・幾代が多い時は、歌を書きます。
「我が宿の菊のしら露けふ毎に いく代つもりて渕となるらん」

また、座の人数のうち全当りの人が、半数以上の時は詩・歌の両方を書きます。

◆メモ
①「燕知社日辞巣去 菊為重陽冒雨開」 (和漢朗詠集261)
燕は社日を知って巣を辞して去んぬ 菊は重陽のために雨を冒して開く (李端)

<現代語訳>:川口久雄「和漢朗詠集」による。
つばめは秋の社日になったことを知って、巣をすてて去って行きます。菊の花は九月九日にまに合おうとして、雨の中もいとわずに開きます。
(注)社日=春秋おのおの一回あり、秋の社日は秋分前後の戊(つちのえ)の日。今年は9月18日。

②「我が宿の菊のしら露けふ毎に いく代つもりて渕となるらん」(和漢朗詠集265)
わがやどの菊のしら露けふごとに いくよたまりて淵となるらん (中務)

<現代語訳>:川口久雄「和漢朗詠集」による。
わが宿の菊に置いた白露は、この重陽の節句ごとに幾代の間つもりたまったならば、かの甘谷の水のように深い淵となることでしょう。
(注)菊のしら露=仙家の菊の露の霊液がつもって淵となるという、中国・甘谷の故事による。

【余談】
・出香九包は、九月九日の重陽の節供に因んでいます。
・重陽の節供(菊の節供)を祝う行事は平安の昔から長く続き、明治13年からは宮中での観菊会が発足し、現在の秋の園遊会に引き継がれているようです。

・『全唐詩』皇甫冉「秋日東郊作」……皇甫冉(こうほぜん)は唐代の詩人
閑看秋水心無事
臥対寒松手自栽
盧嶽高僧留偈別
茅山道士寄書来
燕知社日辞巣去
菊為重陽冒雨開
浅薄将何称献納
臨岐終日自徘徊

・重陽香は、漢詩一句と和歌一首を主題にした、和漢の競いあいを楽しむ?組香のようです。考え出した人は素晴らしい!