(2017.05.06記)
旧暦の四月は卯月。(尤も、新暦でも四月は卯月ですが…)
立夏(今年は5月5日)を迎えたら、暦の上では夏ということになります。
初夏に遊ぶ組香に「夘月香」(大外組)があります。
◇香は六種
一を更衣として 二包で内一包試
二を新樹として 同断
三を夘花として 同断
四を葵 として 同断
五を忍音として 同断
六を客 として 一包で無試
◇聞き方
①一から五の試を聞いて香りを記憶します。
②出香は、一から五の各一包計五包を打ち交て、内一包だけ取り出し、これに六(客)を加えた計二包をたき出します。
◇六(客)の出により答に書く名目
更衣と客ならば ひとへ
新樹と客ならば 深みどり
夘花と客ならば 白たへ
葵 と客ならば 小車
忍音と客なれば 初郭公
◇記録紙
点数の所には、全当たりの人には夘月、客のみ当りには立夏、季のみ当りには首夏と記します。
【余談】
香木に付けられた名<更衣、新樹、夘花、葵、忍音>は、全て初夏の代表的な風物詩となっているもので、言葉を聞いただけで景色が浮かんでくるものばかりです。
名目等も含めて、本当に初夏づくしです。
ところで、卯花は空木(うつぎ)の花。
辞書には、「古来、ほととぎすなどとともに、初夏の代表的風物の一つとされ、白く咲き乱れるさまは、雪、月、波、雲などにたとえられた。」とあります。
美しい風景です!
唱歌「夏は来ぬ」は、「うの花のにほふ垣根に、時鳥 早もきなきて、忍音もらす夏は来ぬ」でした。
ほととぎすも鳴き始めは上手く鳴けずに、声をひそめて鳴くようです。
この歌の作詞は、国文学者であり歌人でもある佐々木信綱氏。(1872~1963)
歌詞には「うの花のにほふ」とありますが、卯の花は匂わない、香りがしない、と以前聞いたことがあります。
旺文社古語辞典で【にほふ】を引いてみますと、
①美しい色に染まる。あざやかに色づく。
②つやつやと美しく映じる。艶麗である。
③美しく光る。明るく照り輝く。
とあり、その次に、
④よい香りがする。咲きほこってよく香る。
とあります。(その他は略)
辞書には、④の例として、「橘のにほへる香かも…(略)」と「(略)…昔の香ににほひける」が挙げてあり、「香」と共に用いているようです。
また、【匂ふ】の語意として、
「色がひときわ美しく人目に立つ意。多く、視覚の面での表現に用い、のち、嗅覚の表現が中心になる。」と説明してあります。
時代の移り変わりと共に、言葉の捉え方が変わってきたことになります。
従って、「うの花がにほふ垣根に…」の【にほふ】は、ひときわ美しく人目に立つように咲いた、という様に捉えれば、卯の花の香りがしなかったとしても、不思議ではありません。
<匂ふ>と<香る>の関係は、単純に<匂ふ=香る>でないことだけは確かなようです。
【付記・追記】葵について
①葵と云えば、三つ葉葵で知られた徳川家の家紋。
徳川美術館の玄関ロビーにはフタバアオイの鉢が飾ってあります。
花は直接見たことはありませんが、カンアオイの花から想像すると見栄えはどうでしょうか。
②葵と云えば、5月15日に行われる京都の「葵祭」。
上賀茂神社と下鴨神社の例祭で、正式には「賀茂祭」とか…。
斎王代をはじめとして、牛車(ぎっしゃ)、衣冠等々を飾るのは葵(フタバアオイ)の葉です。
③葵と云えば、香道志野流に伝わる志野袋、四月の「花結び」は葵。
十二ヶ月の花結び<梅・桜・藤・葵・菖蒲・蓮・朝顔・桔梗・菊・紅葉・水仙・雪持笹>の一つです。
旧暦で眺めて見ると、なるほど時季によく合っていると思います。