(2018.06.07記)
香道の組香目録を何気なく眺めていたところ「源氏三習(さんならい)香」に目が留まり、「三習」って一体何だろうと思い、少し調べてみました。
文字通り「三つの習い」となりますが、習いにはしきたり、学習・練習などの意味の他に、言い伝えや「秘事などを口授されて学ぶこと」といった意味もあります。
ネットで調べてみますと「源氏物語三箇の大事」(秘事、秘訣とも)として、次の三つがあげてあります。
①揚名介(ようめいのすけ)
②三つが一つ
③とのゐもの袋(宿直物袋)
『源氏物語』にその名が出てくる巻は、①が夕顔の巻、②が葵の巻、③が賢木の巻となっています。
「源氏物語」が書かれてから、時代を経るに従って段々と意味するところが分からなくなって、口伝などの形で「古今伝授」のように秘事として伝えられるようになったことから、「源氏物語三箇の大事(秘事、秘訣)」と呼ばれたのではないかと思われます。
①②③の意味は今では明らかになっていて、広辞苑によると、①は「平安時代以後、名目だけで、職務も禄もない国司の次官」、③は「宿直物を入れる袋」との説明があります。
②は「子の子餅(ねのこもち)」がらみのもので、諸説あったものの、現在では「三つが一つ」の意味は「三分の一ぐらい」ということで解釈は落ち着いているようです。
広辞苑では、「子の子(ねのこ)」の項で『源氏物語』葵の巻の場面が説明されていますが、「三つが一つ」という言葉の場面は省かれています。
『源氏物語』の該当部分を読まないことには、亥の子餅、子の子餅、そして「三つが一つ」の意味はイマイチ理解しがたいところですが、アップするにはボリュームが大きすぎますぅ~。(残念です!)
◆『香道蘭之園』(淡交社)には、組香「三が一香(みつがひとつ香)」が載っています。(三乎一香)
香は四種で、一の香、二の香、三の香、もちゐの香、各三包づつの計十二包を聞くというものです。(もちゐの香だけ試みがあります)
聞き方は、一、二、三の香九包を打ち交ぜ、三包づつに分けてその中にもちゐの香一包づつ加えた四包を一結びに、都合三結びにして計十二包を順次炷き出して聞きます。
答え方は、一、二、三の香は聞き捨てにして、もちゐの香が各結びの中で何番目に出たかを答えるというものです。
ひたすら「もちゐ(餅)」に集中です。
三つの香にもちゐの香一つ、三結び、答えるのはもちゐ一つ、組香の意図は何となく解りそうな気がします。
◆志野流香道には、組香「源氏三習香」があります。
香は四種
|揚名之介 として 二包で内一包試
|とのゐもの袋として 同断
|子のこの餅 として 同断
|客 として 一包で無試
聞き方は、試みを聞いた後、出香四包打ち交ぜ、その中から一包を除き、残り三包を炷き出すというものです。
この組香では「もちゐ・三つが一つ」が「子のこの餅」になっています。
三習いが香名として前面に出ていて、『源氏物語』の場面と重ねながら聞いていくと嬉しくなること間違いなしですね。
当たる当らないは別にして…。
♪♪♪
【付記】広辞苑では「子の子(ねのこ)」について以下の説明があります。
■「ねのこ餅」の意。「源氏物語」葵の巻で、光源氏と紫上の結婚の翌日に出された亥の子餅(いのこもち)を翌々日の子(ね)の日に三日の餅(みかのもちい)として転用したところから、たわむれて言ったことば。■
※三日の餅・三日夜の餅=平安時代以降、婚礼三日目の夜に新郎・新婦が祝って食べる餅。
光源氏が初亥の日に差し出された亥の子餅を見て、明日の夕方に紫上にお供えするようにと言ったのを受けて、光源氏の家臣・惟光は子の子(ねのこ)の餅<亥の日の翌日は子の日なので機転を利かせて!>はいかほど用意いたしましょうかと伺ったところ、光源氏はこれの三分の一ぐらいと言った件に、「子の子餅」が出てくるようです。