間色と正色-五色香-

ムラサキツユクサ(紫露草)の花が咲いています。
尤も、朝開いた花も午後になるとしぼんでしまい、翌朝また開くといった具合です。

電子辞書の『広辞苑』で、むらさきつゆくさと入力したところ、見出し一覧に慣用句として「紫の朱(あけ)~」という言葉が目に留まりました。

「ん…、何?」
気になり開いてみたところ、「紫の朱(あけ)を奪う」として「朱(あけ)を奪う紫」に同じとあり、次のような解説がありました。

[論語(陽貨)]間色である紫が正色である朱より人目を引き、もてはやされる。悪が善にまさることのある世の不合理をいう。

間色(かんしょく)=(「間」は、交わる意)①正色(赤・黄・青・白・黒)の混合によって生ずる色。

正色(せいしょく)=①昔、中国で、まじりけなく正しいと定めた色。青・黄・赤・白・黒の五色。

よく知られているように、色に「い」をつけて形容詞になるのは正色の五色のみで、青い・黄い・赤い・白い・黒いの如くです。(日常で「黄色い」と云いますが、これは「黄い」の慣用のようです。例えば「黄い花」と云って良いのですが、慣用として「黄色い花」と云った方が違和感は少ないようです。)
また、他の色(間色)については、紫色の、緑色の、灰色の、というような表現になります。

さて、「朱(あけ)を奪う紫」といえば、真っ先に香道の組香「五色香」を思い出します。

◆香は六種

青として 二包で内一包試
黄として 同断
赤として 同断
白として 同断
黒として 同断
紫として 一包で無試

◆聞き方と記録紙の書き方

青・黄・赤・白・黒の試みを聞いた後、青~紫の六包を打ち交ぜて炷き出します。

記録紙では、赤の処を紫と書き換え、紫の処は空け置くという点が最大の特徴となっています。
文字通り、「朱(あけ)を奪う紫」とし、本来の紫を空け置く(追放する←にくむ余り!)というわけです。(?)

本 香…白 青 赤 紫 黄 黒

記紙1…白 青 赤 紫 黄 黒
記録紙…白 青    黄 黒

記紙2…白 青 紫 黒 黄 赤
記録紙…白 青   黒 黄 

記紙3…白 青 赤 黒 黄 紫
記録紙…白 青  黒 黄

上の例では、記紙1の人が全当りということになります。
因みに、記紙2の人は三点、記紙3の人は四点になります。

遊び方を理解してしまうと、何んということは無いような感じもしますが、『論語』から引いて、しかも赤を紫と書き換え、さらに本来の紫を追い出してしまう点が、良く考えられていて面白いと思います。

【資料1】五行

正色の五色(青・赤・黄・白・黒)は、まさしく陰陽五行(木・火・土・金・水)に対応する色そのものです。

<五行関連>
| 五方 五時 五色  五常 五果 五味
木…東  春  青   仁  李  酸
火…南  夏  赤(朱)礼  杏  苦
土…中央 土用 黄   信  棗  甘
金…西  秋  白   義  桃  辛
水…北  冬  黒(玄)智  栗  鹹

そういえば、「五色香」の他にも「五行」関連の組香が数組あるようです。

【資料2】論語

『論語』陽貨十七の該当部分を引用します。(出典:島田釣一著『論語全解』有精堂)

子曰、悪紫之奪朱也、悪鄭聲之乱雅樂也、悪利口之覆邦家者。」(452)

[読方]子曰く、紫の朱(しゅ)を奪うを悪(にく)み、鄭聲(ていせい)の雅楽(ががく)を乱るを悪(にく)み、利口(りこう)の邦家(ほうか)を覆(くつがえ)す者を悪(にく)むと。

[字義]●紫=間色。即ち赤と黒との雑色から成るもの。●朱=正色。●鄭聲=鄭国の音。極めて淫猥なるもの。●利口=頓智よく言葉巧みに口を利(き)くものを謂う。●覆=傾覆のこと。

[釈義]孔子が曰はれるに、「正と邪とでは、正の方が邪に屈する場合が多い。紫は如何にも美麗で、人の目を眩惑するが是は赤と黒との雑色から成る間色である。然るに正色の朱は反って紫の為めに其美を奪ひ取られるのは悪むべきである。鄭国の音は淫猥であるが、人の耳を悦ばせる故に雅楽と並び奏すれば、人は皆鄭聲に耳を傾け雅樂を顧るものはなくなり、大切な雅樂は是が為に乱される。これも亦悪むべきである。殊に利口の人は頓智よく口を利いて是を非とし、非を是とし、正理は是が為に奪はれる。人主が若し誤って之を信ずれば、国家を傾覆することにもなるから、是は尤も悪むべきものである」と。