新月香

仲秋と云えば名月を思い浮かべますが、この時期に遊ぶ組香として白居易(白楽天)[楽天は字(あざな)]の詩を題材にした「新月香」も一興となりそうです。
「月見香」ほどポピュラーではないと思いますが、組香の背景が味わい深く、しみじみと感じ入るところがあります。

なお「新月香」の新月は、陰暦一日の新月のことではなく、新たに東の空に昇ってきた月、特に十五夜に東の空に輝き始めた明るい月のことです。

川口久雄『和漢朗詠集 全訳注』(講談社)242番に白居易の詩の一節があり、その中に新月の文字がみえます。
以下に引用します。

三五夜中の新月の色 二千里の外の故人の心  

【現代語訳】今夜は十五夜、みやこ長安の地平に、いま大きな満月が姿をあらわしたところです。二千里のかなたにあるわが親友も、この同じ月をながめていることだろうが、いったいどんな気持でいるのでしょうか。

【語釈】〇三五夜中(さんごやちゅう)=十五夜の夜中。〇二千里=長安から遠く離れた江陵の地をいう。元稹(げんしん)がここに赴任していた。○故人=旧友、むかし友だち。白楽天の親友元稹(げんしん)。

【参考】『白氏文集』「八月十五夜 禁中対月」。元稹と白楽天の交友は有名であるが、本句は、左遷されて遠く江州に日を送っている親友の心を思いやって詠んだものである。『源氏物語』須磨巻に「今夜は   十五夜なりけりと思し出でて、殿上の御遊こひしく、所々眺め給ふらんかしと思ひやり給ふにつけても、月のかほみまもられ給ふ、二千里外故人心と誦(ず)し給へる、例の涙も留められず」とあるほか、『平家物語』『源平盛衰記』『東関紀行』『謡曲』などに引く。

ーーーーーーー

新月香」

◆香は三種
楽天として 六包で内一包試
阮稹として 同断
月 として 三包で無試

◆聞き方
試香は、楽天と阮稹。
出香は、次の様に二包一組に結んだものを炷き出します。(一組中の上下の順序は変えません)

①楽天・楽天と一結び
②阮稹・阮稹
③阮稹・楽天(阮稹を上、楽天を下にして結びます)
④楽天・阮稹(楽天を上、阮稹を下にして結びます)
⑤月・月
⑥楽天or阮稹・月(楽天と阮稹の二包を打ち交ぜ、内一包を除き月を下にして結びます)

この六組(十二包)を結んだまま打ち交ぜて順次炷き出します。

◆答え方
札を用いる場合は、二炷聞くごとに以下の札一枚打つことになります。(本則は札のようですが、札は自作するほかありません…)

楽天・楽天と聞けば 楽天 の札
阮稹・阮稹と聞けば 阮稹 の札
阮稹・楽天と聞けば   の札
楽天・阮稹と聞けば   の札
月 ・月 と聞けば   の札
楽天・月 と聞けば 二千里の札
阮稹・月 と聞けば 故人心の札
※古い書には、楽天・月、阮稹・月のどちらの場合も二千里の札と記してありますが、現実的には区別する必要があり、付記にはその旨(二千里、故人心)が記されているようです。

一方、記紙を用いる場合は、六組(十二包)を上記名目で答えることになります。(こちらはいつも通りです…)

◆メモ
『白氏文集』卷十四の「八月十五日夜 禁中獨直 對月憶元九」

銀臺金闕夕沈沈
獨宿相思在翰林
三五夜中新月色
二千里外故人心
渚宮東面煙波冷
浴殿西頭鍾漏深
猶恐淸光不同見
江陵卑湿足秋陰

この七言律詩の解説はネット上に幾つもありますが、次のサイトの解説がシンプルかつ完璧壁!!でお気に入りです…。(^O^)
「雁の玉梓 ―やまとうたblog―」
http://yamatouta.asablo.jp/blog/2009/10/05/4615756

ーーーーーーー

今日、草むらの上をアキアカネ(秋茜)が群れて飛んでいるのを車中から見ました。
この秋、初めて見たような気がしています。
実はずっと前からアキアカネは平地に下りていたのに、猛暑ですっかり出不精になっていたために、気が付かなかっただけなのかもしれません。

※『日本大歳時記』(講談社)より