香道一口メモ・34

雨模様の一日、台風21号の進路・影響が心配です。
中日新聞に連載されていたという志野流香道先代家元・蜂谷幽求斎宗由宗匠の「香道一口メモ」は何とか続いています。

香道一口メモ・34【香合わせ】

太平記に近江の名族・佐々木道誉が大香炉に名香を一度に焚いた(一三三六年)故事が、同時期の建武年間記の二条河原落書には、このころ都にはやるものの中に「香十炷の寄合」が見られる。一木主義の発展は多量の沈水香を収集しては銘を付けて賞し、さらに香りの変化を鑑賞しつつ優劣を競う「香合わせ」を行っていたことをうかがわせる。

二条河原落書(建武元年1334年と伝えられる)

此頃都ニハヤル物 夜討 強盗 謀綸旨 …で始まり、当時の都が如何に乱れていたかを掲げたもので、途中に「茶香十炷の寄合」という文言が出てきています。
王朝貴族達に遊ばれた「合わせ物」に似た遊びごとと思われます。

茶の方は京都・栂尾の「本茶」とそれ以外の「非茶」を味わい当てることを目的にした寄合が流行っていたようですが、香の方でも十炷とあるように香を聞き当てることを目的にした寄合があったのでしょうか。(賭け物をして!)

「香合わせ」と云いますと、近いところでは平成21年に家元・松隠軒で「平成の名香合」が催され、NHKTVでオンエアされました。
有馬頼底氏・徳川義崇氏・近衛忠大氏・冷泉貴実子氏・お家元・若宗匠の六名が、それぞれ秘蔵の六十一種名香を持ちより、左・右の三番勝負で香の聞き比べが行われました。
持参の香木は、順に千鳥・賀・明石・寝覚・紅・花宴であったように記憶しています。

「香合わせ」はいわゆる「物合(ものあわせ)」の一つです。
「物合(ものあわせ)」は、平安王朝貴族の間で流行した歌合、根合、菊合、絵合、香合(こうあわせ)など、左右に分かれて物事を比べ合わせ、優劣を競う遊びごとの総称ですが、中でも「菊合」については組香「菊合香」の席に数年前に参加したことがあり、事前に少しだけ調べたことがあります。

「菊合香」の証歌は、菅原道真の歌で古今集に収められています。

秋風の吹き上げの浜に立てる白菊は花かあらぬか波の寄するか

この歌は、平安前期寛平3年(891年)頃行われた「寛平内裏菊合わせ」の時に、左方8番目の菊に添えられた歌です。
左方・右方に分かれ10番勝負で菊の優劣を競ったもので、道真の左方8番目の歌は、和歌の浦の吹き上げの浜を模した州浜台(今でいう島台?)に立てた菊に添えられたものです。

※州浜台

志野流香道の組香の中には、「菊合香」の他にも「~合香」と呼ぶ組香があるように聞いています。