付干(つけぼし)の作り方
志野流香道先代家元・蜂谷宗由宗匠が、かって月刊誌に寄稿された「香道の心得-水無月-」の中に「付干(つけぼし)」という文字があり、読んだ時の印象としては「良く分からないけど、なんだか面白そう…」という程度であったと記憶しています。
その後、太田清史『香と茶の湯』(淡交社)の中に、「付干」の記事と写真があることがわかり、俄然興味が湧いてきました。
茶の湯では風炉の時季の炭手前で、最後に白檀の角割を焚く習いがありますが、白檀の代りに香木の粉末を白檀に塗り付けた「付干」を焚くのも一興で、参会者にとっては思いがけない「御馳走」として印象に残るかもしれません。
志野流香道15代・蜂谷閑斎宗意宗匠(1803~1881)が好まれた付干は、白檀ではなく松かさ、杉、檜、満天星(どうだんつつじ)の実、紅葉葉、松葉に香木の粉末を付けて干し、更にウコンで色づけしたもので、見るからに手の込んだ作りになっています。(『香と茶の湯』より)
※『香と茶の湯』より
これは、材料集めからして膨大な時間と手間を要するであろうことが容易に想像でき、とても私の手に負える代物ではありません。
という訳で、私が作れるのは白檀の角割に香木の粉末を付着させる「付干」ですが、これまでに複数回試作したことがあります。
なお、付干の名は、香木の粉末を付けて干すのでツケボシとか…。
香道一口メモ・120【付干(つけぼし)】
白檀の薄片を芯(しん)にして作ることもあるが香道家では主に小粒の松かさや松葉、杉の実、もみじ葉などに、粉末にした種々の香を塗り付け、表面を鬱金(うっこん)で色添えし作る。これを茶席では初風炉(ふろ)の時期にくべたりする。一面、その姿は夏の風情・景色を現すものとして賞美され、床の間に飾ることもあった。
■付干(つけぼし)の試作記
【材料】
・香木の炷きがら…聞香などに使用した炷きがらの二次、三次利用です。それなりの量がないと不足感は否めませんので、個人的には数年間「炷空(たきがら)入れ」に溜めておいたものを使うことになります。(香木をすりつぶすと見た目の量はかなり減少します)
・白檀の角割…茶道具を扱っているお店や香店舗にあります。
・布海苔(ふのり)…接着剤として用いますが、本物は身近では入手困難です。福井市に扱っているお店があることは分かっていますが、付干に使う量など微々たるもので、とても注文する気になれません。私は、代替品として日本画材料店で「正麩のり(しょうふのり)」(メチャ安価です!)を購入して用いました。(ネット上では、本物の黄色い布海苔も販売されています。)
・香木をすりつぶす道具…のみ、乳鉢、乳棒など。
【準備】
[A]香木を適当な大きさの粉末にします。
①香木を「のみ」で切り刻んで小さな小片にします。
②乳鉢に入れて適当な大きさの粉末になるまですり潰します。(超微細な粉末にする必要はなく、まったく適当です。)
[B」ふのりを作ります。
正麩糊(生麩糊)の作り方は、祐松堂のHPなどに詳しく載っています。
①正麩粉1:水3を合わせて一昼夜置きます。
②火にかけてとろ火で煮ますが、ずっと棒でかき回し続けます。
③混ぜる棒の軌跡ができるまでかき回し続け、角(つの)が立つようになったら火から下ろします。
祐松堂のHPはコチラ → http://yushodo.art.coocan.jp/makingsyofu.html
【作り方(試作品)】
①白檀の角割に[B]で作ったふのりをまんべんなく塗ります。
②[A]の香木粉末を紙に広げ、その上からふのりをつけた白檀角割を落とします。
③裏返したりして、両面にまんべんなく付着させます。(押え気味にすると接着が良くなります)
④自然乾燥させて出来上がりです。
※左は白檀角割、右が付干試作品
あとは、風炉の時季に焚いて、いつもとは一味違う、馥郁たる?香りに包まれるだけです。
茶の湯の愛好家には、ちょっと変わった一品として案外喜ばれるかもしれません…。