利休書状

淡交社発行の月刊誌『なごみ』を時々借りて見ていますが、6月号に興味深い記事が載っていました。
500年の歴史を誇る御粽司「川端道喜」の代表・川端知嘉子氏が、「御ちまき司 川端道喜とわたし」と題するエッセイの中で、千利休が道喜に宛てた書状について記しています。(道喜といえば粽、また京都御所には「道喜門」が残っています!)
「朝顔の文」に纏わるお話です。(抜粋)

「三十年ほど前に千利休書状 道喜宛「朝顔の文」のレプリカが立派な掛け軸になって売り出された。道喜に伝わってしかるべきこの消息文は、それなりの理由があったのだろう、現在は名古屋の徳川美術館の所蔵となっている。

利休の茶会のエピソードとして有名な朝顔の茶事について、感想をしたためた初代道喜の手紙に対し、即刻その返事を使いの者に託した利休の手紙である。」

名古屋・徳川美術館には茶の湯の名品が数多く所蔵されていますが、2015年秋に「茶の湯の名品」特別展が開かれ、この掛物が展示されています。
・千利休書状 川端道喜宛
・紙本墨書 桃山時代十六世紀 岡谷家寄贈
※同展「茶の湯の名品」図録より
朝顔と云えば、利休が露地の朝顔の花をすべて切り取り、見事な一輪のみを床に生け、豊臣秀吉を迎えて行なった茶会の逸話が伝えられています。(『茶話指月集』)
利休の家の朝顔の花が見事だと聞いて、秀吉が朝の茶会に出かけたところ、庭の朝顔の花は一つもなかったので、秀吉はたいそう不機嫌になったそうですが、小座敷の床に生けてある見事な一輪の朝顔をみて感心し、利休はお褒めにあずかったというお話です。

徳川美術館庭園内で秋に催される「徳川茶会」の日程です。
会費:20、000円(入館料・濃茶席・薄茶席・点心席)
なお、茶券の一般販売は8月8日(木)からとなっています。

詩歌をちこち 【玄冬香】

[漢詩]

氷封水面聞無浪
雪點林頭見有花

|『和漢朗詠集』384
氷(こほり)水面(すいめん)に封(ふう)じて聞(き)くに浪(なみ)なし
雪(ゆき)林頭(りんとう)に点(てん)じて見(み)るに花(はな)あり  菅(くわん)

〔現代語訳〕氷は池の水面にかたく張りつめて、耳をすませても浪の音は聞こえません。雪は林の木々のこずえにふりつもって、まるで花が咲いたように見えます。

*漢詩出典『日本古典文学大系 和漢朗詠集・梁塵秘抄』(岩波書店)
*現代語訳出典『和漢朗詠集 全訳注』(講談社学術文庫)

※菅(くわん)=菅原道真(すがわらのみちざね)

『菅家文草』巻第一 詩一 「臘月獨興」(出典『日本古典文学大系』(岩波書店))

| 臘月獨興 于時年十有四  臘月(らふくゑつ)に獨り興ず 時に年十有四
玄冬律迫正堪嗟  玄冬(ぐゑんとう)律(りつ)迫(せ)めて正(まさ)に嗟(なげ)くに堪(た)へたり
還喜向春不敢賖  還(かへ)りては喜(よろこ)ぶ春(はる)に向(なん)なむとして敢(あ)へて賖(はるか)ならざることを
欲盡寒光休幾處  盡(つ)きなむと欲(す)る寒光(かんくわう)幾(いく)ばくの處(ところ)にか休(いと)はむ
將來暖氣宿誰家  來(きた)りなむとする暖氣(だんき)誰(た)が家(いえ)にか宿(やど)らむ
氷封水面聞無浪  氷(こほり)は水面(すいめん)を封(ほう)じて聞(き)くに浪(なみ)なし
雪點林頭見有花  雪(ゆき)は林頭(りむとう)に點(てん)じて見(み)るに花(はな)あり
可恨未知勤學業  恨(うら)むべし學業(がくげふ)に勤(はげ)むことを知(し)らずして
書齋窓下過年華  書齋(しょさい)の窓(まど)の下(もと)に年華(ねんくわ)を過(すぐ)さむことを