十三夜・「殿さまとやきもの」

今日は旧暦の九月十三日。
十三夜、のちのつき【後の月】の日です。
栗名月とも云われ、旧暦八月十五日の中秋の名月(芋名月)と共に愛でられる月となっています。

※栗名月に因んで栗を…。

中秋の名月はしっかり見たのですが、今夜の「後の月」は厚い雲の向こうで、残念ながら今年は片見月。
超大型の台風19号が東海・関東地方に接近中で、警戒態勢を取るようにと気象庁が呼びかけています。
東海地方は明日が雨・風ともピークで、既に東海道新幹線は計画運休、名古屋のデパートは休業を発表しています。
大ごとにならないことを天に祈るばかりです…。

先日、名古屋・徳川美術館に久しぶりに出かけました。
開催中の秋季特別展は「殿さまとやきもの」ー尾張徳川家の名品ーで、会期は11月10日まで。

蓬左文庫と本館展示室の二カ所で、様々な用途の「やきもの」が並べられていましたが、焼き物といえばどうしても茶道具が主役にならざるを得ません。
今回の特別展も茶入、茶碗、花生、香炉、香合、水指、杓立、建水、茶壺などなど、茶道具が数多く展示されています。
副題が-尾張徳川家の名品-ですから、ほとんどの展示物は美術館所蔵の品々。

矢張り、目が留まるような展示物は、以前にも見たことがあるような、そして銘も記憶に残っているような品々が多かったように思います。
例えば、茶入では「横田」や「本阿弥」など、茶碗では「紅安南草花紋茶碗」や「白天目」など、香炉では「千鳥」や「白菊」などといった具合です。

展示は一品一品がしっかり見られるように、詰め過ぎないようにバランスのとれた配置になっていました。
展示物の並べ方・見せ方を工夫するだけで、見たことがあるような品物も、新しい展示のように感じてしまうから不思議です。
展覧会は見せる「切り口」次第といったところでしょうか。

徳川美術館は4年前の2015年秋に開館80周年を記念して「茶の湯の名品」展を大々的に催しています。
茶の湯関係の所蔵品を、時代の流れに沿って、武将や茶人にスポットを当てながら展示されていたように記憶していますが、名品は全て出されていたのではないかと思うほどの豪華な展覧会でした。
大体、図録は買わないことにしているのですが、このときの図録は流石に買いました。

今回の茶の湯関係の展示品が、2015年の図録に載っているかどうか、確かめてみたところ、概ね載っているように感じました。
館所蔵品なのですから、あたり前と云えば当たり前なのかもしれません。

新しい展示のように感じたのは、切り口を変えて展示されていたからなのか、前回から4年経っているので記憶が薄れていたからなのか、自分でも良く解りませんが、きっと両方なのでしょう…。

図録の写真は確かに重宝しますが、実物にはとてもかないません。
大きさや色合い、そして質感は、モノを目の前で見ないことには絶対に解りませんね。

今回は、公式行事に用いる表道具と当主の私的な御側道具を分けるような切り口の展示がなされていましたが、品物はどれをとっても素晴らしく、公式と私的の区別など付けようがないように思われました。(^O^)

何時見ても、何回見ても、名品は見るからに名品です…。

詩歌をちこち 【蓮香】 

葉展影翻當砌月 花開香散入簾

|『和漢朗詠集』巻上 夏 176

葉展影翻當砌月  葉(は)展(の)びては影(かげ)翻(ひるがへ)る砌(みぎり)に当(あた)れる月(つき)
花開香散入簾風  花(はな)開(ひら)けては香(か)散(さん)ず簾(すだれ)に入(い)る風(かぜ)   白(はく)

〔現代語訳〕蓮の葉がのびのびひろがって、階段の下の石だたみを照らす月の光の中で、その影がひるがえり揺れています。蓮の花がひらいて、あたりにまき散らされた香りは、簾の中に吹き入ってくる風とともに匂って来るのです。

*出典『和漢朗詠集 全訳注』(講談社学術文庫)

※『白氏文集』
|階下蓮      階下(かいか)の蓮(はちす) -階(きざはし)の下(した)の蓮(はちす)-   白(はく)
葉展影翻當砌月  葉(は)展(の)び影(かげ)翻(ひるがへ)る砌(せい)に當(あた)る月(つき)
花開香散入簾風  花(はな)開(ひら)き香(かう)散(さん)ず簾(れん)に入(い)る風(かぜ)
不如種在天池上  如(し)かず種(う)ゑて天池(てんち)の上(うへ)に在(あ)らんには
猶勝生於野水中  猶(な)ほ野水(やすゐ)の中(うち)に生(しゃう)ずるに勝(まさ)れり

〔通釈〕庭の砌(みぎり)を照らす月光の下に蓮の葉が伸び、その影がちらちらと翻り、簾に吹き入る涼風の中に蓮の花が開き、その芳香が漂う。この階下の美しい蓮の花は、たしかに天上の天池のほとりに植えたほうがよいが、かといって田舎の泥水の中に生ずるよりは今の方がまだしもましである。

*出典『新釈漢文大系99 白氏文集三』(明治書院)
※白(はく)=白居易(はくきょい) 字(あざな)は楽天