紅葉散る
紅葉が一葉、また一葉と散っていきます。
踏み歩くとサクサクと乾いた音が響きます。
すべて落ち切るまで、露地の掃除はお預けと、怠惰を決め込んでいます。
落葉と云えば、落葉を題材にした組香として、旧暦十月初冬の頃には「時雨香」や「初冬香」が好んで行なわれているようです。
「時雨香」は「木の葉散る宿は聞きわく方ぞなき時雨する夜も時雨せぬ夜も」を証歌としていますし、「初冬香」は名目として落葉・時雨・木葉雨・村時雨が付されています。
今日は新暦12月も半ば、暦を見ると旧暦十一月仲冬半ばで、昨夜はちょうど美しい満月でした。
紅葉の樹を見て、落葉を冠した組香は…、と過去に行なった組香を眺めてみたところ「落葉香」が目につきました。
【落葉香】
◆香三種
雲として 六包で無試
嵐として 五包で無試
客として 一包で無試
◆聞き方
①はじめに、雲三包、嵐二包の五包を打ち交ぜて炷き出します。
※全て無試なので、同香三炷のものを雲、二炷のものを嵐として聞き分けます。
②次に、雲三包・嵐三包の六包より一包抜いた五包に客一包を加えた六包を打ち交ぜて炷き出します。
※雲、嵐のどちらかが二包となります。
※①で嵐と雲を聞き分けているので、②での聞き分けも可能となります。
◆記録紙
②の後出香で、
雲が三包出れば本香の下に歌一首が書かれます。
嵐が三包出れば記の奥に歌一首が書かれます。
移りゆく雲に嵐の声すなり 散るか正木のかつらきの山
(『新古今和歌集』第六 冬 382 藤原雅経(まさつね))
客当りの人には、聞きの中段(点数の上)に「かつらきの山」と書かれます。
全当りの人には、点数の処に「落葉」と書かれます。
◆メモ
※まさき【柾木・正木】→「柾木の葛(かづら)」の略。柾木の葛(かづら)は、定家葛(ていかかずら)、または蔓柾(つるまさき)の古名と古語辞典にあります。
※かつらきの山→かつらぎ・かづらき(葛城)の山。奈良県と大阪府の境をなし、金剛山を主峰として南北に走る山脈。修験道最古の霊場。謡曲「葛城」でも知られています。(歌枕)
※「正木のかつら」と「かつらきの山」の「かつら」は掛詞になっています。
※「かつら」が掛詞になっているように、先出香①で香を聞き分け、それを用いて後出香②の香も聞き分けるという、香が「かけ持」ならぬ「かけ香」?のようになっているのかも…です。
※良く練られた、また遊び心に満ちた組香になっているように思います。(ポイントは他にあるかもしれません…。)
※歌の大意は、2019.04.27付けblogの【詩歌をちこち】で一度取り上げています。
〔大意〕どんどん流れてゆく雲中に嵐の音がこもって聞こえるよ。いま散るのであろうか、まさきのかずらが葛城山で。(『新日本古典文学大系』より)
◆余談
そう云えば、「初冬香」も組み方は異なりますが、香は[嵐・雲・ウ]の三種でした。(^O^)
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詩歌をちこち 【烟競香】
|①『壬二集』(玉吟集巻上)(家隆)
| 順徳院名所百首 711
| 塩竃浦
はるよいかに花鶯の山よりも 霞むばかりのしほがまのうら|②『新後拾遺和歌集』巻第八 雑秋歌 836
| 炭竃を 兼好法師
すみがまも年のさむきにあらはれぬ 煙や松の爪木なるらむ*和歌出典『新編国歌大観』(角川書店)
※藤原家隆(ふじわらのいえたか)
※兼好法師(けんこうほうし)