梔子・十友香

クチナシ【梔子】の白い花が、公園の緑々の中に浮かび上がっています。
一目でそれと分かる鮮やかさです。
芳香を放つ梔子の花、実は熟すと黄赤色となり、古くから黄色染料に用いられています。
クチナシの果実は熟しても裂開しないので<口無>とも呼ばれるとか…。

ところで、梔子は「名花十友」の一つとして知られています。
中国、宋の曾端伯が十の名花を選んで、十種の友にたとえたものです。
即ち、荼蘼(どび)を韻友、茉莉(まつり)を雅友、瑞香(沈丁花)を殊友、荷花(蓮の花)を浄友、巌桂(木犀)を仙友、海棠(かいどう)を名友、菊花を佳友、芍薬を艶友、梅花を清友、梔子を禅友とする「名花十友」です。
※巌桂は木犀(もくせい)の異名。

この「名花十友」を題材にした組香に「十友香」(外組49)があります。
聞書(ききしょ)には、「宋の曾端伯、十花を以って十友となす。所謂、桂僊友、菊佳友、梅清友、荷浄友、海棠名友、荼蘼韻友、茉莉雅友、瑞香殊友、芍薬艶友、詹匐(梔子)禅友といえる詞をとりて組香となす」とあります。
※桂僊友の「僊」は「仙」の俗字。僊友=仙友
※詹匐(せんふく)は両字とも原文には草冠があり、梔子(くちなし)の花のこと。

◆香は六種
一として 四包で内一包試
二として 同断
外に
別一として 一包で無試
別二として 同断
別三として 同断
別四として 同断

◆聞き方(10人で行う場合)
先ず、最初に記紙の端を折って内に一、二を各五つ印した記紙を打ち交ぜて出し、参会者はこれを取ります。
一の印の記紙を取った人(5名)は、一の香を我香と心得ます。
二の印の記紙を取った人(5名)は、二の香を我香と心得ます。

試み香を終えた後、一、二の香六包を打ち交ぜ内より四包取り、これに別香の四包を加え、計八包を打ち交ぜて炷き出します。
我香(一の印の人は一、二の印の人は二)が何番目に出たかを聞いて記紙に記します。(別香は聞き捨て!)
例えば、一の印の人が、一の香が二番目と四番目に出たと思えば二、四と記紙に記し、二の印の人が、二の香は一番目、五番目、八番目に出たと思えば、一、五、八と記紙に記します。

後出香として、残りの香二包を打ち交ぜ、内より一包を炷き出します。
これが一、二の香のどちらなのか、記紙に書き付けて出します。

記紙の書き方は、一、二で答えるので簡単かつシンプルです。
参会者(連衆)はとても「楽」です。(当、不当は別として!)

でも、これだけでは名花十友を題材にした「十友香」にはなりません。

この組香は、執筆の方が大変であるように感じています。
記録紙の所定の位置に「名花」をそれぞれ順番に書き入れ、後出香(九炷目)の当たりに応じて「十友」に書き換える作業があるからです。
詳細および記録例は、説明が煩雑になりそうなので略します。m(__)m

聞書にある手順で記した記録紙には名花十友が認められ、雅趣に富んだ風景を醸し出しそうです。 (^^)

『古今和歌集』巻第19 雑体1012 素性法師

山吹の花色衣ぬしやたれ 問へど答へずくちなしにして

〔大意〕山吹の花のような黄色の衣は、持主は誰だねと尋ねるけれど答えない、口がないという名の「くちなし」色であって。 ※出典『新日本古典文学大系』(岩波書店)