秋立つ

今日は二十四節気の「立秋」。(黄経135度)
暦の上では、今日から「秋」ということになります。
七十二候では「涼風至(すずかぜいたる)」、涼しい秋風が吹き始める候です。
昼日中の猛暑は相変わらずですが、立秋と聞いただけで、陽射しの中に透き通った柔らかさを、朝夕の風にふとした涼しさを感じるのは、ただただ気のせいなのでしょうか。

天明七年の「暦便覧」には「はじめて秋の気たつがゆへなればなり」とあります。
太陽の動きに合わせて、1年を二至(冬至・夏至)二分(春分・秋分)四立(立春・立夏・立秋・立冬)でできた八節をさらに3分割し、各月に二つずつ配したのが二十四節気。
詳しくは黄経を二十四等分しているようですが、この8月には立秋と処暑が該当しています。

『古今和歌集』秋歌上 169
秋立つ日よめる  藤原敏行朝臣
あききぬとめにはさやかに見えねども 風のおとにぞおどろかれぬる

ぶらり立ち寄った大手書店の茶書・華書・香書等のコーナーで目に留まったのは荻須昭大著「香の本」第三版(雄山閣)。
着せてある帯の背には[門外不出 香銘大鑑]の朱書きの文字がありました。

帯には、「他見を許さず」として門外不出だった『香銘大鑑』をはじめて集録!
さらに、香道の基礎知識とともに四季折々の組香を詳しく解説した《お香歳時記》も充実した内容!、といったキャッチコピーが並びます。

2017年に発行された同『香の本』増補版とどこが違うのだろうと比較してみました。
目次を見ると、総ページ数は同じ、各章、各項目の立て方とページ数も同じで、内容はどうだろうか?と適当に数ページ開いてみたところ、ページの内容も造り方も全く同じでした。
第三版は増補版と同じだ!と思いましたが、念のため最後の「奥付」を見たところ、著者の略歴が加筆されていました。 (^^)

帯にも記してある通り、この本が「好評のロングセラー」になっていることは想像に難くありません。
志野流香道の全体像を把握するのに、最適の入門書と云っても決して過言ではないように思います。
発行部数は知る由もありませんが、静かなるバイブルと化しているのかも…。
とは言え、伝統芸能では茶道、華道と同じく香道でも実技・手業は必須、お香は炷いてみないことには始まりません。
そして、長い長~い修練は全ての伝統芸能・文化に共通する道となっているようです…。(^^)

何といっても圧巻なのは第五章の「香銘大鑑」。
「春夏秋冬雑恋」の部に2800を超える香銘が収められ、意味・木所・味などが付記されています。
香銘自体は現在でも新たに作られていると思いますが、資料としては類を見ない貴重な「香銘大鑑」だと思います。
「門外不出」なるものが世に出版されるに至った経緯は分かりようもありませんが、諸々の事情が横たわっているのかもしれません…。

個人的には、「香銘大鑑」にある二つの香銘の読みにこだわりがあり、未だ解決されていません。
雑「十二二」(350頁)と雑「十八葛」(366頁)の読みが記してないのです。(増補版・第三版とも同頁)
なんと読んだらいいのでしょう…。 (^^)

増補版と第三版とでは奥付で著者の略歴に加筆がなされていることから確かに版が違うことになるのでしょう。
版と刷の違いについて少し調べてみましたが、なるほど!と妙に納得したのは、Wikipedia にある以下の記述でした。

(はん、edition)とは、などの出版物において、ほぼ同一の原版から印刷された、ほぼ同一の内容をもつものの総称である。同じ版のなかで、印刷時期が異なるものを(すり、さつ、impression, printing)と呼ぶ。ただし、同じ版でも多少の訂正が施されていることもあり、特に日本では両者が(しばしば意図的に)混同され、実質的には刷である「版」や、実質的には版である「刷」も普通に見られる。

公園の木に留まり羽を休めているトンボ。
後ろから指を近づけても動こうとはしないので掴めそうでしたが、掴んだところでどうするあてもなく、思い直して手を引きました。

トンボ【蜻蛉】は前にしか進まず、後ろには下がらないことから、縁起の良い「勝ち虫」とか…。
トンボの柄や画は、着物や印伝に、また茶席の掛物・造り物などに幅広く使われているようです。 (^^)

閑かさはあきつのくぐる木叢(こむら)かな 飯田蛇笏