香道一口メモ・112【反魂香】
志野流香道先代家元・蜂谷幽求斎宗由宗匠(1902~1988)が中日新聞に連載されていたという「香道一口メモ」を、当ブログに文字を起こしてアップし始めてから四ヶ月になります。
香道の全体像が周辺部分も含めて良く分かり、とても勉強になります。
一口とは言え、簡潔にして要を得ていて、文章に隙はありません。
今日のタイトルは「反魂香」。
昨日の香道一口メモ・111で玄宗皇帝と楊貴妃の物語に出てきた「焚けば死者の姿を煙の中に現す」(広辞苑)という反魂香です。
NHKネットラジオ・らじるらじるの聞き逃し番組に収録されている「日本人と香りの美」(全十三回)の中でも、松栄堂主人・畑正高氏が「反魂香」について触れていました。
反魂香は、歌舞伎「傾城浅間嶽(けいせいあさまがたけ)」、浄瑠璃「本朝廿四孝(ほんちょうにじゅうしこう)-十種香の段-」などに見られ、落語ではそのものずばりの「反魂香」という演目があります。
「傾城浅間嶽」では、傾城奥州との間で交わした愛の誓いの証文を火鉢に入れると、煙の中に奥州の姿が現れて恨み言を言って消えるというものだそうで、反魂香を踏んでいます。
「本朝廿四孝-十種香の段-」については、以前記事にした覚えがありますが、原本は岩波文庫に収めてあり、触りの部分は以下の通りです。
……。月に花にも楽しみは。絵像の傍で十種香の。煙も香花と成たるか。回向せうとてお姿を絵にはかゝしはせぬ物を。魂返す反魂香。……
落語「反魂香」では、反魂香ならぬ越中富山の薬「反魂丹」を焚いてもうもうたる煙にむせるというのがオチになっています。
そうそう、越中富山と云えば薬の「反魂丹」ならぬ「反魂旦」という銘菓がありましたね。(^O^)
実は、反魂香そして反魂香塚にまつわる物語が、愛知県あま市萱津の阿波手の森・正法寺を舞台にして伝えられています。
そこらへんのお話は、後日あらためて記事にしたいと思っています。(要するに、間にあいませんでした。<m(__)m>)
※「尾張名所図会」より反魂香の図
香道一口メモ・112【反魂(はんごん)香】
カンラン科の反魂樹の根を煮詰めて取った汁を練り、作る。漢の武帝の故事に、長安に疫病が流行した時、これをたいたところ、宮中の病者が直ちに起き上がり、疫死して三日とたたない者は生き返ったという。この事象は信じがたい話だが、理外の理で、あるいは事実だったかもしれないと本草綱目に述べている。この術はわが国にも伝わった。