五月香

某所での組香は「五月香」。
今日5月25日は、旧暦では四月三十日で、明日から五月になるところです。

◆香は四種で、
一として 四包で内一包試
二として 同断
三として 同断
客として 二包で無試

◆聞き方
①一、二、三の試みを聞いて、これらの香りを覚えます。
②一、二、三の各三包計九包を、四包と五包に分けます。
(ア)先ず、四包の方に客を加えて五包をたき出します。
(イ)次に、五包の方に客を加えて計六包として打ち交ぜ、内四包を除いた残り二包をたき出します。

初めに五包、後で二包、計七包を聞くことになります。

この組香の証歌は、『古今和歌集』139の歌で、よみ人しらずです。

さつきまつ花たちばなのかをかげば昔の人の袖の香ぞずる

歌意は、五月を待って咲く橘の花の香りをかぐと、昔親しかった人が袖にたきこめていた香りを懐かしく思い出すことだよ、と云ったところでしょうか。

さて、この歌は『伊勢物語』の60段「花橘の」にも出てきます。
元はと云えば『古今和歌集』の方で、『伊勢物語』では男の歌として利用されているようです。

「昔、男ありけり。宮仕へいそがしく、…」で始まる『伊勢物語』60段は、男の詠んだ上記の歌を聞いて、かって男の妻であった女は、他人の妻となった自分の浅はかさを思いだし、尼になって山に入って暮らしたと云う、悲しい物語です。(今風に考えると、男は「意地の悪夫」のお話しです。)

この歌は、一見ロマン漂う歌のように感じられるのですが、『伊勢物語』60段での使われ方はあまりよろしくはないようです。

古典には全くの門外漢ですが、組香「五月香」に関連して『伊勢物語』60段を少し調べてみたところ、人間の心の奥底を垣間見る思いがして、興味を引かれました。

どうやら、人間は昔も今もあまり変わっていないようです…ネ。(o^-^o)

伊勢物語
<片桐洋一編『伊勢物語・大和物語』(角川書店)より>