八代集と歌集香

平安前期の『古今和歌集』から鎌倉初期の『新古今和歌集』までの、八代にわたる勅撰和歌集は「八代集」と呼ばれています。

『古今集』
『後撰集』
『拾遺集』
『後拾遺集』
『金葉集』
『詞花集』
『千載集』
『新古今集』

上記の内、太字の『古今集』『後撰集』『拾遺集』は特に「三代集」と呼ばれています。(「代」は天皇の治世の意)
歌集の編纂を命じたのは順に、醍醐天皇、村上天皇、花山院、白河天皇、白河院、崇徳院、後白河院、後鳥羽院となっています。
勅撰和歌集は上記以降の代にもつくられ、資料集などには「二十一代集」としてまとめられています。(8代+13代=21代)
巻数は、金葉集と詞花集は10巻ですが、他は20巻で編成されています。

和歌集にはほとんど馴染みが無いのですが、開くとすれば組香に引かれている歌を調べる時ぐらいでしょうか…。(^O^)
ということで、勅撰和歌集に関わる組香を一つ取り上げてみました。

上記「八代集」の巻頭の歌が引かれている組香に【歌集香】があります。

◆香は八種
古今 として 二包で内一包試
後撰 として 同断
拾遺 として 同断
後拾遺として 同断
金葉 として 同断
詞花 として 同断
千載 として 同断
新古今として 同断

◆聞き方
各試みを終えた後、各一包計八包を打ち交ぜて内より三包取って炷き出します。

本香の出に応じて、記の奥に書かれることになる「八代集」の巻頭の歌三首は次のようです。
なお、巻頭の歌ですから、当然のことながら全て春の歌です。(一首全部は略します)

古今  年のうちに…
後撰  ふるゆきの…
拾遺  春立つと…
後拾遺 いかにねて…
金葉  打なひき…
詞花  氷ゐし…
千載  春の来る…
新古今 三芳野の…

この組香の面白さは、偏に「八代集」の巻頭の歌を題材にしたところにあると思います。

巻頭の歌が八首も並ぶと、さすがに壮観です…。(^O^)

思い出したように「詩歌をちこち」です。

詩歌をちこち 【歌集香】 

|①『古今和歌集』巻第一 春歌上 1
|  ふるとしに春たちける日よめる  在原元方
としのうちに春はきにけりひととせを こぞとやいはむことしとやいはむ
〔大意〕年内に早くも春が来てしまったよ。この一年を立春の日の今日からどう呼べばよいだろう、去年と言おうか、今年と言おうか。

|②『後撰和歌集』巻第一 春上 1
|  正月一日、二条のきさいの宮にてしろきおほうちきをたまはりて  藤原敏行朝臣
ふる雪のみのしろ衣うちきつつ 春きにけりとおどろかれぬる
〔大意〕降る雪を防ぐ蓑代衣ならぬ白い大袿を賜わり、それを何度も肩にかけつつ、暖かい御厚情に、我が身にも春が来たことよと、驚いているのでございますよ。

|③『拾遺和歌集』巻第一 春 1
|  平さだふんが家歌合によみ侍りける  壬生忠岑
はるたつといふばかりにや三吉野の 山もかすみてけさは見ゆらん
〔大意〕立春になったというだけで、まだ雪に覆われているはずの吉野山も、霞んで今朝は見えるのだろうか。

|④『後拾遺和歌集』巻第一 春上 1
|  正月一日よみはべりける  小大君
いかにねておくるあしたにいふことぞ きのふをこぞとけふをことしと
〔大意〕どのように寝て起きた朝だというので、特に区別して言うのでしょうか。昨日を去年と、そして今日を今年と。

|⑤『金葉和歌集』巻第一 春部 1
|  堀川院の御時百首歌めしけるに立春の心をよみ侍りける  修理大夫顕季
うちなびき春はきにけりやまがはの いはまのこほりけふやとくらむ
〔大意〕春がやってきたよ。山の中を流れる川の岩と岩の間に張っていた氷が、今日は解けるのだろうか。

|⑥『詞花和歌集』巻第一 春 1
|  堀川院御時百首歌たてまつり侍りけるに、はるたつこころをよめる  大蔵卿匡房
こほりゐししがのからさきうちとけて さざなみよする春かぜぞふく
〔大意〕氷が張りつめていた志賀の唐崎はすっかり氷も解けて、細波をうち寄せる春風が吹いている。

|⑦『千載和歌集』巻第一 春歌上 1
|  春たちける日よみ侍りける  源俊頼朝臣
はるのくるあしたのはらをみわたせば 霞もけふぞたちはじめける
〔大意〕春がやってくる朝、あしたの原を見渡すと、春とともに霞も今日は立ちはじめたことだよ。

|⑧『新古今和歌集』巻第一 春歌上 1
|  はるたつこころをよみ侍りける  摂政太政大臣
みよしのは山もかすみて白雪の ふりにしさとに春はきにけり
〔大意〕吉野は山も霞んで、昨日まで白雪の降っていたこの古里に春は来たことだ。

*和歌出典『新編国歌大観』(角川書店)
*大意出典『新日本古典文学大系』(岩波書店)

※在原元方(ありわらのもとかた)
※藤原敏行(ふじわらのとしゆき)
※壬生忠岑(みぶのただみね)
※小大君(こだいのきみ・こおおぎみ)
※藤原顕季(ふじわらのあきすえ)
※大江匡房(おおえのまさふさ)
※源俊頼(みなもとのとしより)
※摂政太政大臣=藤原良経(ふじわらのよしつね)