フジバカマ[藤袴(蘭)]

今日は(から)二十四節気の一つ「霜降」。
文字通り、霜が降りる頃の意ですが、東海地方の平野部では初霜はまだのようです。
北国や山間部ではそろそろといったところでしょうか。

名古屋・徳川美術館では企画展「読み継がれた源氏物語」が来月から始まります。(11月8日~12月13日)
特別公開されるのは、五島美術館蔵「紫式部日記絵巻」と徳川美術館蔵「源氏物語絵巻 橋姫」。
其の外にも、三の丸尚蔵館や個人蔵の源氏絵の名品など、併せて50件が展示されるようです。

鉢植えのフジバカマ【藤袴】が咲いています。
アサギマダラの飛来を長年待っているのですが、今年も願いは叶わなかったようです。
月が替わるまで待って、ドライフラワーにでも仕立てることにします。(^^)

フジバカマと云えば、一木四銘香の一つフジバカマ[藤袴(蘭)]を思い出します。(秋の七草であるよりも…です。)
森鴎外の短編小説『興津弥五右衛門の遺書』に出てくる「初音」「白菊」「柴舟」の一木三銘に、宮中へ献上したとされる「藤袴(蘭)」を加えて一木四銘とも云われている香木です。
小説では、一木の部位(本木と末木)を争って刀沙汰になるのですから、上質の香木はとても価値の高いものであったことが解ります。

キク科の多年草であるフジバカマ「藤袴(蘭)」は淡い紫色の花を咲かせます。

香道の組香【菊花香】では、香四種[黄花・紫花・白花・菊花]を用いますが、この中の「紫花」は蘭の花ではないかと思われます。
一口に蘭といっても、今どきのランではなく、フジバカマの類です。
この組香では、計七炷の最後に炷いた香が[紫花]なら、記録紙の銘々の聞きの処には「蘭」、本香には「蘭蕙苑嵐摧紫後」と記すことになっています。

「蘭蕙苑嵐摧紫後」については、以前「詩歌をちこち」シリーズで取り上げたことがあります。
『和漢朗詠集』巻上 秋 271
蘭蕙苑嵐摧紫後 蓬莱洞月照霜中  菅三品
※菅三品=菅原文時(899~981)は平安中期の学者・漢詩人。(10/26訂正)

蘭は藤袴の異名でもありますが、『日本国語大辞典』の蘭の[語誌]には次の記述があります。

「中国では、古くは「蘭」はキク科の香草で、多く「菊」と対で詠まれる。香嚢にして身につける蘭を「芷蘭(しらん)」といい、「芷蘭」は「蘭」の美称ともなった。「蘭」「芷蘭」ともに字音語でも行われた。日本でも上代から例が見られるが、総じて香りの高い植物をいったもので、種類を特定しにくい。」

一方、藤袴(漢名は蘭草)の[語誌]には次の記述があります。

「「蘭」は香草の総称であったが、中古以降はもっぱらフジバカマのこととされ、歌語として用いられた。「源氏ー藤袴」でも、地の文では「蘭」といっていても和歌中では「ふぢばかま」である。」※下記(注)参照

漢詩の「蘭」はフジバカマとしてもよさそうですが、敢えて藤袴とは特定しないで、蘭は蘭のままで…、といったところでしょうか。?(^^)?

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(注)『源氏物語』30帖「藤袴」の該当部分。

の花のいとおもしろきを持給へりけるを、御簾のつまよりさし入れて、(夕霧)「これもご覧すべき故は有りけり」とて、とみにも許さで持給へれば、うつたへに思ひも寄らで取り給ふ御袖を、引き動かしたり。(夕霧)同じ野の露にやつるゝ藤袴哀れはかけよかごとばかりも」出典:『源氏物語』(桜楓社)