時雨する…
神無月降りみ降らずみ定めなき時雨ぞ冬の初めなりける 読み人知らず 後撰和歌集 445
『和漢朗詠集』355にも収められている歌ですが、川口久雄『和漢朗詠集』(講談社)では現代語訳は次のように記されています。
「十月は、時雨が降るかと思えばやみ、やむかと思えば降ってくる。はっきりしない天候が続きますが、これも冬のはじめだからです。」
昨日は旧暦十月一日で神無月に入り、今日は時雨て歌の通りに初冬を感じさせる一日となりました。
ところで、香道の組香には「時雨香」があり、この時季には必ずと言っていいほど組まれる組香となっています。
志野流香道では同名の組香が二つあり、他流にも組み方は異なりますが矢張り「時雨香」があるようです。
[証歌]は「後拾遺和歌集 第六冬」 落葉如雨といふ事を詠める 源頼実
木の葉散る宿は聞き分く方ぞなき時雨する夜も時雨せぬ夜も
志野流香道では、無聞の人には、聞き分く方が無かったということで、この歌一首が添えられる組香もあるようです。
◆時雨あれこれ
・時雨…本阿弥光悦作の黒樂茶碗で名古屋市博物館所蔵。(元は森川如春庵蔵)
※『茶道雑誌』(H27・四月号)より。
・時雨…小督局(こごうのつぼね)が用いたという琴の名。
・時雨亭…京都・高台寺にある茶室で傘亭とつながっている。
・時雨亭…京都・嵯峨野にあったと伝えられる藤原定家の山荘。
・時雨亭文庫…冷泉家歴代が相承する文庫。藤原俊成・定家・為家以来の歌学書を中心とした古典籍と古記録・古文書類を収蔵。(広辞苑)
香道一口メモ・66【香炉④】
置き香炉にはうす・八角・宝珠・ひさご・火ばち・ほていなど無数の形態があり、鳥獣の部も同一物で姿が変わるとかで六十種余りにおよぶ。土器製のカモ・フクロウ・ネコは不浄の場。象・ツル・クジャク類は廊下や土間。オシドリなら婚礼用で床の間に置くなどと場所・時を特定する。最近、種々の香炉が市販されているが、しきたりを心得て、求めること。
そんなしきたりがあるなんて…。