ショウブ(菖蒲)とアヤメ(菖蒲)

樋口百合子『いにしへの香り』(淡交社)を読んで、今まで漠然と思っていた事が、全くの思い違いであることがわかりました。

ショウブ(菖蒲)とアヤメ(菖蒲)の関係です。

と云うより、正確にはショウブ(菖蒲)が何であるかを実はよく知らなかったという事実です。

端午の節供の際には、邪気を払うとしてショウブ湯に入れる、あのショウブ(菖蒲)です。

ショウブ(菖蒲)は葉に芳香があり、菖蒲湯を初めとして菖蒲酒、軒菖蒲など災いや穢れを払うものとして、またショウブ(菖蒲)は尚武に通じるとして、端午の節供には昔から用いられています。

実は、『いにしへの香り』の中で、ショウブの花は「ガマ(蒲)の穂にそっくりの華やかでない花の…」という文があり、「ショウブって、そんな花?…」と思い辞書を引き写真を見てビックリ、正にその通りでした。

※『里山の植物ハンドブック』より

辞書によると、ショウブ(菖蒲)はサトイモ科ショウブ属の植物で、花は確かにガマの穂に似ています。

今まで、ショウブの花は漠然とですが、花菖蒲の綺麗な花を想像していたような気がします。

端午の節供で使ってきたショウブ(菖蒲)が、実はこの葉であったとは…。

なんと、なんと…です。

一方のアヤメ(菖蒲)はアヤメ科アヤメ属の植物で、花は黄色と紫色の虎斑(とらふ)があるので、花を見れば直ぐに分かるような気がしています。

とは云っても、花を見ずに葉だけを見て、これはアヤメと判別できる自信はとてもありませんが…。

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★サトイモ科ショウブ属
ショウブ【菖蒲】

★アヤメ科アヤメ属
アヤメ【菖蒲】
・カキツバタ【杜若・燕子花】
・キショウブ【黄菖蒲】
・ハナショウブ【花菖蒲】(注)
・イチハツ【鳶尾・一八】
・シャガ【射干】
・…

(注)…ハナショウブ【花菖蒲】はノハナショウブ【野花菖蒲】の改良種で、俗に「しょうぶ」と云われていますが、節供の時のショウブとは別物です。

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ショウブとアヤメの漢字が共に菖蒲であることが思い違いの一つの要因になっているように思います。

それもそのはず、古くはショウブ(菖蒲)を指してアヤメ・アヤメグサ(菖蒲草)とも云っていたというのです。

それが後世になって、アヤメと云えば現在我々が思い描く美しい花を咲かせるアヤメ(菖蒲)を指すようになったといいますから、これでは思い違いも致し方ないのかもしれません。

今ではアヤメと聞いたら、虎斑が入いった美しいアヤメの花を思い出しはするものの、本来のショウブを思い出す人は少ないのではないでしょうか。

逆にショウブと聞いたら、本来のショウブを思い出す人よりも、ハナショウブ(花菖蒲)を思い出す人の方が多いのではないでしょうか。

ショウブ(菖蒲/Acorus calamus)とアヤメ(菖蒲/Iris sanguinea)にまつわる経緯や勘違いは、重井薬用植物園HP内の「ショウブ(ショウブ科)」の記事がすんなりと解決してくれそうです。

重井薬用植物園のホームページはこちら → http://www.shigei.or.jp/herbgarden/album_syoubu.html

ところで、香道には組香「菖蒲(あやめ)香」があり源頼政の歌から組まれています。

五月雨に 池のまこもの 水まして いづれあやめと 引きそわづらふ (頼政)

また、『伊勢物語』からとった「杜若(かきつばた)香」もあり、在原業平の折句(おりく)の歌でその名を知られています。

らころも つつなれにし ましあれば るばるきぬる びをしぞおもふ (業平)

余談ですが折句といえば、松栄堂主人・畑正高氏がNHKR2「日本人と香りの美」で紹介していた「沓冠(くつかぶり)折句」も印象に残っています。(沓冠折句は、各句の初めと終わりに一音ずつ計十音を詠み込んだもの)

「栄花物語」に出てくる「あはせたきものすこし」(合わせ薫き物少し)を詠み込んだ歌です。

ふさか てはゆきき きもゐ づねてとひ かばかへさ (光孝天皇)