香道の心得・月見香

今日9月10日は旧暦では八月一日(八朔)、いよいよ仲秋です。
一日ですからお月さまは新月となり、今夜見ることは叶いません。
でも、組香「月見香」においてなら、如何様にも月を「見る」ことができそうです。

志野流香道先代家元・蜂谷幽求斎宗由宗匠(1902~1988)が月刊誌に連載されていたという「香道の心得」の一節です。

香道の心得 ◆長月◆ (5)終

 月見香は有試の月と無試の客との二種の香で構成され、これを各々三片ずつ、計六片(炷)から適宜に三炷取り出し聞香するという単純な形式だが、月客の出方によって
月月月 月月ウ ウ月月 月ウ月 ウ月ウ 月ウウ ウウ月 ウウウ
の八通りの組合せが出来、これに十五夜、待宵、十六夜、水上月、木間月、夕月夜、残月、雨夜などとの名称が与えられている。おおよそ、その意味づけがわかろうが、客香を水や木、明るさにたとえて様々の月を鑑賞するという真に趣き豊かな香式である。
我々の想像力を駆使させ、木間の月、十五夜とか水上の月とかいった情景を描き出せるのも香の世界ならではのことであり、装飾のなされた弄清亭での月見の香は一層その感を深くする。
仲秋の名月は云うに及ばず、月見香に現われる月の様を観月の名地で鑑賞するのはいかがであろう。京にはそれぞれにふさわしい地があるはずである。

この時期によく行なわれる「月見香」は、香が二種の比較的単純な組香の部類に入りそうですが、月にまつわる名目に妙味があり、味わい深い組香となっています。

◆香は二種
月として 四包で内一包試
客として 三包で無試

◆聞き方
月の試みを聞いた後、月三包・客三包の計六包を打ち交ぜ、内より三包を炷き出します。
香の出方により、次の名目で答えます。

月月月…十五夜、月月ウ…待宵
ウ月月…十六夜、月ウ月…水上月
ウ月ウ…木間月、月ウウ…夕月夜
ウウ月…残月 、ウウウ…雨夜

◆メモ
『香道の作法と組香』(雄山閣)には上記名目の解説が載っています。
名目は、客(ウ)を水、木、明るさなどにたとえ、月と結びつけることにより様々な月見の情景を表しているようです。

【月月月…十五夜】月が三包全て出たので満月、即ち十五夜。
【月月ウ…待宵 】もう少しで満月となる意味で待宵。(十六夜の逆)
【ウ月月…十六夜】ウが最初に出て、後で月がためらうように出るので十六夜。
【月ウ月…水上月】ウは水面を表し、三炷目の月は水面に映る月で水上月。
【ウ月ウ…木間月】ウは木を表し、月が木と木の間から見えるので木間月。
【月ウウ…夕月夜】ウは空の明るさを表し、月が見えてから暗くなるので夕月夜。(残月の逆)
【ウウ月…残月 】ウは空の明るさを表し、明るくなっても月が残っているので残月。
【ウウウ…雨夜 】ウは雨を意味し、月が見えないので雨夜。

◆余談
中秋の名月は旧暦八月十五日の月(芋名月)で、今年は9月24日にあたります。
月齢に応じて月には様々な名称が与えられていますが、十五夜前後の名称の一部をピックアップしてみます。

十四日…待宵月、十五日…十五夜、十六日…十六夜、十七日…立待月、十八日…居待月、十九日…寝待月、二十日…更待月

特に、十五夜は3×5=15であることから三五夜(さんごや)とも云われています。(一杯16文の二八蕎麦と同じ?)
三五夜と云えば、白居易の「三五夜中新月色 二千里外故人心」から引かれた組香「新月香」(香は楽天・阮稹・月の三種)を思い出します。

「新月香」については、また別の機会に…。

初夏にも咲いた雁金草(かりがねそう)が、秋を迎えて再び咲き出しています。
この花を見る度に、苗を買い求めた八ヶ岳倶楽部、そしてオーナーの俳優・柳生博さんを思い出します。