ホトトギス三種

秋の花、ホトトギスが咲き出しました。
今年の夏は連日の猛暑で、葉焼けをおこした株が幾つもありましたが、元気な株はちゃんと花を咲かせてくれました。
ホトトギスの花が咲くと、秋が来たことを実感します…。

※白花ホトトギス

※シノノメホトトギス

※ジョウロウホトトギス

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香道の心得 ◆神無月◆ (3)

 秋風(有試)と、白菊(無試)をそれぞれ三炷ずつ六炷の内から適宜四炷取り出し聞香する「菊合香」は古今集・菅原朝臣の

秋風のふきあげに立てるしら菊は 花かあらぬか波のよするか

を証歌とし、白菊の多いと聞香した人には、秋風の多い人には、二種等分にはと書き付ける。この発想はいかにも妙を得ていよう。このように自然の風物やそれを詠んだ歌を巧みに捉え香組しているのである。

「菊合香」(きくあわせこう)

◆香二種
秋風として 四包で内一包試
白菊として 三包で無試

◆聞き方
秋風の試みを聞いた後、
秋風三包、白菊三包の計六包を打ち交ぜ、内より二包を除き、残り四包を炷き出します。

◆記録
・銘々の聞きの中段(点数の上の所)に、出方によって名目を書きます。
白菊多く出れば 花
秋風多く出れば 波
二種等分ならば 菊

・本香の所に歌一首を二行に書き、香の出により秋風、白菊の傍らに一、二、三、四の順番の漢数字を添えます。
秋風、白菊は両方とも最大で三炷(最小で一炷)出る可能性があるので、「あき風」・「しら菊」のように三文字で書くと漢数字を添えやすいと聞いたような覚えがあります。

◆歌
古今和歌集 秋歌下272

秋風のふきあげにたてるしらぎくは 花かあらぬか浪のよするか  すがはらの朝臣

この歌の詞書は、日本古典文学大系『古今和歌集』(岩波書店)によると、
「おなじ御時せられける菊合に、すはまをつくりてきくの花うゑたりけるにくはへたりける哥、ふきあげのはまのかたにきくうゑたりけるをよめる」
とあります。

また、頭注として次の記述があります。
【菊合】左右に分かれて菊の花を持ち寄って優劣を争う遊び。【すはま】洲のある浜辺にかたどった台。その上に名所の模型を作る。【ふきあげのはま】和歌山県和歌の浦の北にある浜。【秋風の】秋風の吹いている、という意。【あらぬか】違うか。

歌の意味は[秋風の吹く吹き上げの浜に立てた白菊は、花なのか、はたまた寄せる波なのか]といったところでしょうか。
この歌は、平安前期寛平3年頃に行なわれた「寛平内裏菊合わせ」の時に、左方8番目の菊に添えられた歌です。
「菊合わせ」は「貝合わせ」「根合わせ」といった「物合わせ」の一つ。
左方・右方に分かれて10番勝負で菊の優劣を競ったもので、菅原道真の歌は、和歌の浦の吹き上げの浜を模した州浜台(今でいう島台)に立てられた菊に添えられたものです。

「菊合香」は、この歌を証歌として組まれていますが、白菊が多く出れば(=秋風が少なければ)立てた白菊は花として、秋風が多く出れば(=秋風が強ければ)立てた白菊は寄せる波のように見えるということでしょうか。
また、秋風、白菊が等分に出れば、白菊は白菊として(寄せる波は波として)見えると云うことでしょうか…。

因みに、歌に詠まれた「吹き上げの浜」は埋立てによって無くなっていますが、和歌山市の中心部に「吹上」という地名が今でも残っているようです。