物名(もののな)

古今和歌集の巻第十は「物名(もののな)」。
物名(もののな)は、与えられた物(鳥、虫、草木など)の名称を、前後の意味に関係なく、掛詞のように詠み込むもの、と辞書にはあります。

古今伝授の秘伝とされた「三木」も「物名(もののな)」で、秘伝は師から弟子へ口伝や切紙で伝えられたようです。
かって熊本を訪れた際に、水前寺公園内の建物に「古今伝授の間」があった事を思い出します。
また、岐阜県郡上市には「古今伝授の里フィールドミュージアム」があります。(「三鳥」を名付けた建物もあります。)

三木は、一説には「おがたまの木」「めどに削り花」「かはなぐさ」とされているようです。
◆おがたまの木(小賀玉木)-モクレン科の常緑高木-
| 古今和歌集 巻第十 物名 431
| 紀友則
み吉野のよしのの滝にうかびいずる あわをか玉の消ゆと見つらむ
みよしののよしののたきにうかびいずる あわをかたまのきゆとみつらむ

◆めどに削り花(蓍に削花)-蓍萩(めどはぎ)に削り花-
| 古今和歌集 巻第十 物名 445
| 二条后、春宮の御息所と申ける時に、めどに削花挿せりけるを、よませ給ひける  文屋康秀
花の木にあらざらめども咲きにけり ふりにしこのみなる時も哉
花の木にあらざらめども咲きにけり ふりにしこのみなる時も哉

◆かわなぐさ(川菜草)-水草の一種-
| 古今和歌集 巻第十 物名 449
| 清原深養父
うばたまの夢に何かはなぐさまむ 現にだにも飽かぬ心を
うばたまのゆめになにかはなぐさまむ うつつにだにもあかぬこころを

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「物名(もののな)」の部立ては、『拾遺和歌集』にもあります。
香道の組香「松虫香」の証歌には「まつむし」が組み込まれていることで知られています。

| 拾遺和歌集 巻第七 物名 369
| 壬生忠岑
たぎつ瀬の中にたまつむしら浪は 流る水を緒にぞぬきける
たぎつ瀬の中にたまつむしら浪は ながるる水を緒にぞぬきける

「松虫香」については、既に時季が過ぎていますので、また来年にでも…?

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更に『拾遺和歌集』には、よみ人知らずとして次の様な面白い歌(429、430)もありました。

一夜ねてうしとらこそは思ひけめ うきなたつみぞわびしかりける
ひとようしとらこそは思ひけめ きなたつぞわびしかりける
そうなんです!<子・丑・寅・卯・辰・巳>です。

むまれよりひつしつくれば山にさる ひとりいぬるに人ゐていませ
むまれよりひつしつくれば山にさる ひとりいぬに人ていませ
こちらは<午・未・申・酉・戌・亥>です。

『新日本古典文学大系 拾遺和歌集』(岩波書店)によると歌意は以下のようです。
<上の歌>
一夜共寝して、私の事を不満となど思ったようだから、またと訪ねて来ないだろう。だが、一夜だけでも恋愛沙汰があったと噂が立つ我が身が情けないことだ。

<下の歌>
生まれた時から櫃を作っているので、これから山に去っていく。一人で行くのは心もとないから、人を連れて行きなされ。

遊び心たっぷりに、十二支が歌の中にうまく隠されています!

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「物名(もののな)」(ぶつめい)は、他に『千載和歌集』や『続後拾遺和歌集』にも収められています。

下の写真は「おがたまの木」に似た「唐種おがたまの木」の花で、名古屋・徳川美術館北門からのアプローチで春に撮影したものです。
当blogのタイトル写真にもなっています。