詩歌をちこち【初秋香】
今日の名古屋は最高気温32.1℃を記録し、真夏日となりました。
でも、湿度が低かったのでしょうか、日陰に吹く風はさわやか、しのぎやすい一日でした。
半夏生(はんげしょう)の葉がそれなりに白くなっています。
別称は片白草(かたしろぐさ)とか…。
カラスビシャク【烏柄杓】も緑色の仏焔苞を元気に伸ばしています。
毎年、毎年、植物は花の時季を忘れることはありませんね…。
❖
詩歌をちこち 【初秋香】
〔和歌〕
|①『和漢朗詠集』巻上 秋 206
| 敏行
あききぬとめにはさやかにみえねども かぜのおとにぞおどろかれぬる
〔現代語訳〕秋がやってきたと、はっきり目に見えるわけではありませんが、ふと木の葉をゆるがして吹きすぎる風の音が、まぎれもなく秋風の響きであることに、驚かされるのです。
*同歌:『古今和歌集』巻第三 秋歌上 169|②『和漢朗詠集』巻上 秋 207
| よみ人不知
うちつけにものぞかなしきこのはちる あきのはじめになりぬとおもへば
〔現代語訳〕なんということもなく、ふともの悲しくなるのです。今日から、木の葉が散る秋の季節がはじまったのだと思うと。*和歌出典『新編国歌大観』(角川書店)
*現代語訳出典『和漢朗詠集 全訳注』(講談社学術文庫)❖-------
〔漢詩〕
䔥颯涼風与悴鬢 誰教計会一時秋
槐花雨潤新秋地 桐葉風涼欲夜天|③『和漢朗詠集』204
䔥颯(せいさつ)たる涼風(りゃうふう)と悴鬢(すいびん)と
誰(たれ)か計会(けいくわい)して一時(いつじ)に秋(あき)ならしむる 白(はく)〔現代語訳〕ものさびしい音をたてて涼風が吹き、季節は秋となり、いっぽう私は鬢髪もすっかり衰えて人生の秋を迎えました。立秋の今日という日に、天の季節と我が身の季節が一時に秋となるよう、いったいだれがとりはからったのでしょうか。
|④『和漢朗詠集』209
槐花(くわいくわ)雨(あめ)潤(うる)ふ新秋(しんしう)の地(ち)
桐葉(とうえふ)風(かぜ)涼(すず)し夜(よ)になんなむとする天(てん) 白(はく)〔現代語訳〕槐(えんじゅ)の花が初秋の雨に濡れてしめやかに潤っています。桐の葉には涼やかな風が吹き、空はしだいに暮れようとしています。
*漢詩出典『日本古典文学大系 和漢朗詠集・梁塵秘抄』(岩波書店)
*現代語訳出典『和漢朗詠集 全訳注』(講談社学術文庫)
※藤原敏行(ふじわらのとしゆき)
※白居易=白楽天
※上記の漢詩③、④は、以下の詩から引かれています。
③『白氏文集』巻第十九「立秋の日、楽遊園に登る」
|立秋日登樂遊園 立秋の日樂遊園(らくいうゑん)に登る
獨行獨語曲江頭 獨(ひと)り行(ゆ)き獨(ひと)り語(かた)る曲江(きょくかう)の頭(ほとり)、
廻馬遅遅上樂遊 馬(うま)を廻(めぐ)らすこと遅遅(ちち)として樂遊(らくいう)に上(のぼ)る。
䔥颯涼風與衰鬢 䔥颯(せうさつ)たり涼風(りゃうふう)と衰鬢(すゐびん)と、
誰教計會一時秋 誰(たれ)か計會(けいくわい)して一時(いちじ)に秋(あき)ならしむる。
〔通釈〕ただ独り曲江のほとりを独りごちつつ歩み、馬を回(かえ)してとぼとぼと楽遊園に上る。うら寂しくも秋の風に色あせた鬢毛。いったい誰の計らいで、風も髪もこのように一斉に秋にならせたのか。
④『白氏文集』巻第五十五「秘省の後庁」
|秘省後廰 秘省(ひしゃう)の後廰(こうちゃう)
槐花雨潤新秋地 槐花(くわいくわ)雨(あめ)潤(うるほ)す新秋(しんしう)の地(ち)、
桐葉風翻欲夜天 桐葉(とうえふ)風(かぜ)に翻(ひるがへ)る夜(よ)ならんと欲(ほつ)するの天(てん)。
盡日後廰無一事 盡日(じんじつ)後廰(こうちゃう) 一事(いちじ)無(な)し、
白頭老監枕書眠 白頭(はくとう)の老監(らうかん) 書(しょ)を枕(まくら)にして眠(ねむ)る。
〔通釈〕槐花が雨に洗われて潤う新秋の地、梧桐の葉が風に飛ばされる夕暮れの空のもと、一日じゅう秘書監の務める後ろの政務所は、煩わしい仕事など一つもなく、白髪頭の老秘書監は書物を枕に昼寝ができる。
※上記出典 『新釈漢文大系 白氏文集』(明治書院)
❖
【初秋香】
◆香は五種
一 として 三包で無試
二 として 同断
三 として 同断
秋風として 二包で内一包試
新秋として 同断
◆聞き方
秋風・新秋の試みを聞いて香りを記憶しておきます。
二包(秋風・新秋)を打ち交ぜて一包を取り、一二三の九包に加え、計十包として炷き出します。
十炷香の如く聞きますが、正聞きの一包が秋風か、新秋かによって、また、当りの仕方に応じて、記録紙に書かれる漢詩・和歌が異なるようです。