14代・沈壽官さん

7月31日付け朝日新聞夕刊に薩摩焼窯元14代・沈壽官さんの惜別の記事が載っていました。
6月16日に92歳で亡くなった薩摩焼の第一人者・沈壽官さんを悼み、氏の来歴を紐解く記事となっていました。

見出しにあるように、作家の司馬遼太郎さんが14代に深く関わっていたことは、この記事で初めて知りました。
文中の『故郷忘じがたく候』の出版物に目が留まりました。
ネットで検索したところ『司馬遼太郎全集 29巻』の短編の中に収められていることが解り、早速借りて読んだ次第です。

司馬氏は元新聞記者の国民的人気作家です。
史実を丹念に調べあげ、徹底した取材に基づいて巧みに構成された文章は、疾風怒濤、一気に読み終らせる力に満ちていました。
読後、しばし胸に迫るものがありました…。

鹿児島へは旅行で行ったことがあります。
その折、窯元見学を思い立ち、橋本陶正山窯元へ行ったのですが、時間的な制約から沈壽官窯元へは行かなかったのです。
今でもちょっぴり心残りとなっています。
また、鹿児島へ行くような機会があれば、是非工房を訪れたいと思っています。

※陶正山「薩摩盛金七宝紋蓋置」

沈壽官窯のホームページを開いてみました。
15代・沈壽官当主の挨拶に始まり、「沈家のあゆみ」が淡々と記されていました。
記述の奥には『故郷忘じがたく候』が静かに横たわっているような気がしました…。

詩歌をちこち 【詩歌合香】

[和歌] 

|①『古今和歌集』巻第三 夏歌 135
|  題しらず   よみ人しらず
わがやどの池の藤浪さきにけり 山郭公いつかきなかむ
| このうた、ある人のいはく、かきのもとの人まろがなり
〔大意〕わたくしの家の池のほとりの藤が咲いたなあ、池の水面も夏風に波立っているよ。山に籠(こも)っているほととぎすは、いつになると来て鳴くのだろう。

|②『新古今和歌集』巻第一 春歌上 11
|  題しらず   山辺赤人
あすからはわかなつまむとしめしのに きのふもけふも雪はふりつつ
〔大意〕明日からは若菜を摘もうと、しめを結っておいた野に、昨日も今日も雪は降り続いて。

|③『新千載和歌集』巻第十六 雑歌上 1655
|  亭子院石山にまうでさせ給へりけり日、近江国のつかさ打出のはまに御まうけつかうまつりたりけるを、ただに過ぎなんとせさせ給うければよめる   大伴黒主
ささら波ひまなく岸をあらふなり なぎさ清くはきてもみよとや

|④『古今和歌集』巻第二 春歌上 122
|  題しらず   よみ人しらず
春雨ににほへる色もあかなくに かさへなつかし山吹の花
〔大意〕春雨によって、より美しく咲きほこる色も、いつ見ても見飽きないのに、なおその香りにさえ心をひかれる、山吹の花よ。

*和歌出典『新編国歌大観』(角川書店)
*大意出典『新日本古典文学大系』(岩波書店)

※山部赤人(やまべのあかひと)
※大伴黒主(おおとものくろぬし)

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[漢詩]

|①三絶句   杜子美(杜甫)
楸樹馨香倚釣礒  斬新花蕊未應飛
不如醉裏風吹盡  何忍醒時雨打稀
*出典『杜甫全詩訳注(二)』(講談社学術文庫)

|②陪族叔刑部侍郎瞱及中書舎人賈至遊洞庭湖   李太白(李白)
洞庭西望楚江分  水盡南天不見雲
日落長沙秋色遠  不知何處弔湘君
*出典『新釈漢文大系19 唐詩選』(明治書院)

|③閨怨   王昌齢
閨中少婦不知愁  春日凝粧上翠樓
忽見陌頭柳楊色  悔敎夫壻覚封侯
*出典『新釈漢文大系19 唐詩選』(明治書院)

|④濟江問同舟人   孟浩然
潮落江平未有風  軽舟共濟譽君同
時々引領望天末  何處青山是越中
*出典『孟浩然詩全訳注』(Kindle)

(注)漢詩の書き下し文と通釈は、ボリューム等の関係で省略です。