漢詩の世界~四季を歌う~

悠然看南山
11月3日、名古屋・八勝館の茶会で床に掛けられた一行です。

この句は「採菊東籬下 悠然見南山」(きくをとるとうりのもと ゆうぜんなんざんをみる)の下の句です。
漢詩の原文が載っている本を図書館で探したところ、一番見やすそうで興味を引かれた一冊が『茶席からひろがる漢詩の世界』(淡交社)。

※表紙カバーの下の方はカット!

「序章」は「四季を歌う」として、春水満四沢のタイトルで「四時の歌」が取り上げられています。
広く知られた漢詩をトップに持ってきて、掴み所を心得た本になっています。(^O^)

春水満四沢
夏雲多奇峰
秋月揚明暉
冬嶺秀孤松

茶席でも床によく掛けられる句です。
この漢詩は組香の【四季香】にも引かれていて、「詩歌をちこち」では2019.03.13のblog記事でとりあげました。

それにしても、春は水、夏は雲、秋は月、冬は嶺なんですね~。(^O^)

この本は、語りかけるような、親しみやすい文章で書かれていますが、内容はしっかり深く掘り下げてあり、原文・出典も漏らさず明記、かゆい所に手が届く細やかな配慮がなされています。
漢詩(作者)の歴史と漢詩関連地図(都市・山・河)も付されていて完璧です。

目から鱗がポロポロ剥がれ落ちる、とても勉強になる一冊でした。(疲れました!)
そうそう、正月の床にかけられる「結び柳」に纏わるお話は初耳で新鮮でした…。(^O^)

ところで、四季を歌う、四季の風情を表す言葉は、他でもいくつか見ることができるようです。

例えば、山。
俳句の季語にもなっていますが、山笑う(春)、山滴(したた)る(夏)、山粧(よそお)う(秋)、山眠る(冬)。
本には、この出典もちゃんと挙げてありました。

そういえば、古典の『枕草子』にもありました。
春はあけぼの、夏は夜、秋は夕暮、冬はつとめて。

春夏秋冬、四季を歌う言葉はいろいろありそうです…。

詩歌をちこち 【水鳥香】

|①『続千載和歌集』巻第六 冬歌 635
|  水鳥を   中務卿恒明親王
さゆるよのこほりとぢたる池水に かものあをばも霜やおくらん

|②『新千載和歌集』巻第六 冬歌 683
|  百首の歌奉りし時、水鳥   内大臣
池水に結ぶ氷のひま見えて 打ちいづるなみやにおの通ぢ

|③『千載和歌集』巻第六 冬歌 429
|  水鳥をよめる   源親房
かたみにやうはげの霜をはらふらむ ともねのをしのもろごゑになく
〔大意〕お互いに羽の上に置いた霜を払っているのだろうか。一緒に寝ている鴛鴦鳥が声を合わせて鳴いている。

*和歌出典『新編国歌大観』(角川書店)
*大意出典『新日本古典文学大系』(岩波書店)
※恒明親王(つねあきしんのう)
※源通相(みなもとのみちまさ)
※源親房(みなもとのちかふさ)

(注)
・鴨(かも)…慣用句「鴨が葱を背負ってくる」の鴨。<m(__)m>
・鳰(にお)…カイツブリ。鳰の海(湖)=琵琶湖。滋賀県の県鳥。
・鴛(おし)…おしどり【鴛鴦】の古名。