柳緑花紅・花紅柳緑

春の茶席でお目にかかる禅語です。
「柳緑花紅」…柳は緑 花は紅(くれない)

中国北宋代の蘇軾(そしょく)=蘇東坡(そとうば)は、うららかな春の光景を見て「柳緑花紅、真面目(しんめんもく)」と詠じたそうです。
『茶席の禅語大辞典』(淡交社)には、「自然のあらゆるものがそのままで真実を具現しているさまをいう」とあります。
見た目そのまま、感じたそのまま、といったところでしょうか。

「花紅柳緑」も字義は同じですが、こちらは『唐詩紀事』に拠っているそうです。

コロナ騒ぎに気を取られているうちに、いつの間にか桜花が風に舞い、川面に花筏となって流れています。
見上げれば、柳は緑、花は紅の景色で、自然界は春爛漫の様相を呈しています。

柳・桜と聞くと、京の都の春景色を詠んだ素性法師の歌を思い出します。(『古今和歌集』56)

|花ざかりに京をみやりてよめる
みわたせば柳桜をこきまぜて 宮こぞ春の錦なりける

この春は新幹線に乗るのも憚られ、京の都の春桜はお預け、近場でのお花見となりました。
そうそう、「都の春」といえば、某家元の初釜のお菓子は、緑と赤のかけ分けのきんとんとか…。

矢張り、春を感じさせるのは柳と桜、色で云えば緑と赤(桃)ということになるようです。!(^^)!

香道の組香「禁裏香」では、香種に桜と柳があり、素性法師の歌がぴったり合いそうな感じですが、証歌になっているわけではありません。

【禁裏香】

◆香は三種
桜として 三包で内一包試
柳として 同断
客として 二包で無試

◆聞き方
桜・柳の試みを終えたのち、出香六包を打ち交ぜて炷き出します。
答えは二炷ごとに名目で答えます。

<札の場合>
札表=飛香舎(ひぎょうしゃ)、昭陽舎(しょうようしゃ)、紫宸殿(ししんでん)、弘徽殿(こきでん)、清涼殿(せいりょうでん)、淑景舎(しげいさ(しゃ))、仁寿殿(じじゅうでん)、温明殿(うんめいでん)、襲芳舎(しほうしゃ)、凝華舎(ぎょうかしゃ)
札裏=桜、柳、吉野、錦木、葛城、紅、路野、緑、外山

<記紙の場合>
二炷ごとに札の名目にて記します。(二炷両当りで二点)

<名目>
桜桜と聞くは 桜
柳柳 〃   柳
桜柳 〃   吉野
柳桜 〃   錦木
桜客 〃   葛城
客客 〃   紅
柳客 〃   路野
客柳 〃   緑
客桜 〃   外山

◆メモ
禁裏(御所)の殿舎と春の情景が巧みに組み込んであり、桜、柳、紅、緑もちゃんと入っています…。(^O^)