暮秋香

今日は旧暦の九月一日。
旧暦八月(仲秋)は昨日で終わり、今日から旧暦九月(異称は季秋・暮秋)が始まります。

春夏秋冬、それぞれの季節の三ヵ月を「孟・仲・季」(孟は初め、仲は真ん中、季はすえの意)と三つに分け、孟・仲・季を冠して各月を呼び表すことがあります。
尤も、初春、初夏、初秋、初冬のように「孟」よりは「初」の方が馴染みが深いかもしれません。
また、暮春、暮秋、晩秋、あるいは晩冬というように「季」の代わりに暮や晩を用いることも多いようです。

組香の目録の中にも「孟・仲・季」を冠した、あるいは類した言葉「初、暮や晩」を冠したものがあり、ざっと拾ってみました。

| (孟) (仲) (季)
春 初春香  -  暮春香
夏  -   -  晩夏納涼香
秋 初秋香 仲秋香 暮秋香
冬 初冬香  -   -

秋は、矢張り素材が豊富だからでしょうか、初・仲・暮と三つとも揃っています。

この中の「初秋香」と「仲秋香」は以前記事にした覚えがあります。
今日から旧暦九月となりますので、組香「暮秋香」を催すのも一興かもしれません…。(^^)

【暮秋香】

◆香は四種
一として 四包で内一包試
二として 同断
三として 同断
客として 一包で無試

◆聞き方&記録紙
十種香の如く聞きます。
本香を先に開いて、当りのみを記録紙に写します。
銘々の聞きは、一を秋雨、二を秋霜、三を秋霧、客を初時雨と記録紙に書きます。
また、聞きの中段(点数の上の処)に以下の名目が書かれます。
秋雨三炷とも不当は、秋月
秋霜三炷とも不当は、秋田
秋霧三炷とも不当は、秋風
客不当は、常盤山

点数は常の通りで、全当りは暮秋と書かれます。

◆メモ
名目は何れも晩秋の風物詩と云えそうです。

「秋雨三炷とも不当は秋月」のように、香四種について当たらなければ〇〇というような名目が付される組香は、とても珍しいような気がしています。(全て調べたわけではないので不確かですが…)
秋雨が降らなければ(当たらなければ)美しい秋の月が見える?
秋霜がおりなければ風情ある秋の田が広がっている?
秋霧が出ていなければ爽やかな秋の風が吹いている?
初時雨が降らなければいつも変わらぬ常盤の山が望める?

常盤山については、京都市右京区に常盤という地名があり、そこの山と想像はできますが、山としての常盤山はないようです。(そういえば、嵐電には常盤駅があります。)
『日本国語大辞典』には、常盤は左大臣源常(みなもとのときわ)の山荘があったところからとあります。

『広辞苑』には、常磐・常盤の意味として「①常に変わらない岩、②永久不変なこと、③松・杉など、木の葉が常に緑色で色を変えないこと。」とあります。

因みに、常盤山が歌枕として詠まれている歌を『古今和歌集』、『新古今和歌集』から一首ずつ。※出典:『新日本古典文学大系』(岩波書店)

|『古今和歌集』巻第五 秋歌下251
| 秋の歌合しけるときよめる  紀淑望(よしもち)
もみぢせぬときはの山は吹く風のおとにや秋をきゝわたるらん
〔大意〕もみじしない常緑の山は、吹く風の音で、秋の気配に耳を傾けつづけているのだろうか。

|『新古今和歌集』巻第四 秋歌上370
|  和泉式部
秋くれば常磐の山の松風もうつるばかりに身にぞしみける
〔大意〕秋が来ると、紅葉しないはずの常磐の山の常緑の松を吹く風も、紅葉するのかと思う程身に染みることだ。

ところで、旧暦九月十三日の十三夜(後の月・栗名月)は、今年は10月29日です。
片見にならないように、忘れずに見なくっちゃ…。

今日は気温がぐんと下がり、名古屋の最高気温は17.4℃で11月下旬頃?の寒い一日となりました。
暮秋香の名目にもありますが、「初時雨」が降ってくるのもそう遠いことではなさそうです。

「暮秋」という言葉がふさわしい時季になってきました。(^^)