土用の入り
今日は夏の土用の入り。
夏の土用は8月6日まで続き、明くる8月7日は立秋、暦の上では秋ということになります。
土用は一年に四回ありますが、特に夏の土用は「土用の丑日」(今年は7月28日)にウナギを食することでよく知られています。
木・火・土・金・水の陰陽五行説を様々な事象に当てはめ、五色、五常、五味、五音、五方、五気、五果などが定められていますが、土用は五気[春・夏・土用・秋・冬]の区分の一つ。
一年365日を五分した73日を五気「春・夏・土用・秋・冬]に配分し、更に土用の分73日を四分した18日(19日)を四季の最後に加える形で、春の土用、夏の土用、秋の土用、冬の土用としています。
考え方としては、例えば夏から秋に急に変わるのではなく、移行期にあたる夏の土用を経て、秋立つ日・立秋を迎えるといった感じでしょうか。
他の季節についても全く同様で、とても合理的な考え方であると思っています。
五行説を題材にした組香としては、五行香、五色香、五常香、五音香、五方香などが知られています。
香種はそれぞれ以下のようになっています。
五行香[木・火・土・金・水]
五色香[青・黄・赤・白・黒・紫]
五常香[仁・義・礼・智・信]
五音香[宮・商・角・徴・羽]
五方香[東・西・南・北・中央]別に香四種[一・二・三・客]も有り
五行説に因む和歌も多く詠まれています。
藤原定家『拾遺愚草員外』には十五首歌が収められていて、木火土金水の歌は「五行香」に、青黄赤白黒の歌は「替五色香」にそれぞれ引かれています。
木 国とめる民のかまどの煙にも 外山の木木のもとぞしらるる
火 ふかき夜の道にさきだつ松の火の 光をおくる契りばかりや
土 わきそめしはじめもしらずあらかねの土よりなれるよもの海山
金 霜さえて月かげしろき風のうちに おのが秋なるかねのおとかな
水 行へなき山のしづくの露ばかり ながるる水のすゑのしらなみ
東 あさ日さすきしの青柳うちなびき 春くる方はまずしるきかな
西 宮こよりたづねいくのの花薄 ほのかにてらすみか月の空
南 堂たてし岸のかひある藤波の なびきてともにたのみやるかな
北 ひかげみぬこなたの軒の陰の雪 山のこしぢは空にしられぬ
中 秋のよの影かたぶかぬもち月の とまるは空のもなかなりけり
青 かは竹の葉ごしの色にまがふかな 玉のすだれにかくるあふひは
黄 枝かはす岸の款冬はなちりて こがねの露に浪ぞこえける
赤 時雨れつる雲も日影にそめられて 紅葉をちらす峰の木枯
白 白雲のやへたつ峰の山さくら 空にもつづく滝つかは風
黒 烏羽玉のやみのうつつにかきやれどなれてかひなき床のくろかみ
また、藤原良経『秋篠月清集』下・雑部にある東西南北中の歌は「五方香」に引かれています。
東 月も日もまづいでそむるかたなれば あさゆふ人のうちながめつつ
西 秋かぜもいりひのそらもかねのおとも あはれはにしにかぎるなりけり
南 たまづさをまつらむさとの秋かぜに はるかにむかふはつかりのこゑ
北 そなたしもふゆのけしきのはげしとや とぢたるとをもたたくかぜかな
中 むかしよりみやこしめたるこのさとは ただわがくにのもなかなりけり
夏の土用の入りから五行説そして和歌へ……、いささか我田引水が過ぎたようです。
それにしても、昔の王朝人は苦も無く歌を詠んでいるように感じます。
個人的には、敷島の道は全くの別世界。
「七夕香」で和歌一首を詠むのに四苦八苦しているようでは、とてもとても…。(^^)
公園の鬼百合です。