「四季」で楽しむ組香③

「瀟湘八景」
平沙落雁、遠浦帰帆、山市晴嵐、江天暮雪、洞庭秋月、瀟湘夜雨、煙寺晩鐘、漁村夕照

中国・湖南省の洞庭湖の南方で水と水が合流して湖に至る景勝地・瀟湘(しょうしょう)を、北宋の宗迪(そうてき)が八幅の山水画にした「瀟湘八景」は余りにも有名です。

八景[落雁・帰帆・晴嵐・暮雪・秋月・夜雨・晩鐘・夕照]の景色自体は如何にもありそうな画題で、その後も多くの画家によって「瀟湘八景」は描かれています。
南宋時代の画僧・牧谿(もっけい)や玉澗(ぎょくかん)の作は日本に伝わっていて、国宝や重文などに指定されています。

名古屋・徳川美術館にも伝牧谿や玉澗の作は伝わっていて、『茶の湯の名品』特別展(2015年)に出品され同図録にも収められています。

※(重文)遠浦帰帆図 玉澗筆

※洞庭秋月図 伝 牧谿筆

日本でも多くの絵師や画家によって「瀟湘八景」が描かれています。
また、「瀟湘八景」に倣って、「近江八景」や「江戸八景」などなど、各地の景勝が八景として描かれています。

「近江八景」は琵琶湖南部の景勝地八か所を選んだもので、1500年近衛政家の選定と伝えられ、江戸時代に描かれた「近江八景」は歌川広重の代表作の一つとなっています。(ネット上で閲覧可)
堅田落雁、矢橋帰帆、粟津晴嵐、比良暮雪、石山秋月、唐崎夜雨、三井晩鐘、瀬田夕照

そして、「八景」は絵画だけに留まらず、和歌に詠まれたり、詩題としても取り上げられています。
※宮内庁書陵部蔵「瀟湘八景和歌」にある「平沙落雁」に寄せた歌
まつあさるあしへの友にさそはれて空行かりも又くたるなり

香道の世界にも「八景」を題材にした組香「八景香」があります。(^^)

「四季」で楽しむ組香③ 【八景香】

春夏秋冬を香名に、八景[落雁・帰帆・晴嵐・暮雪・秋月・夜雨・晩鐘・夕照]を名目に取り込んだ組香【八景香】です。

◆香四種
春として 五包で内一包試
夏として 同断
秋として 同断
冬として 同断

◆聞き方と点・星
先ず、本香十六包を二包ずつ次のように結び合わせておきます。
春々、夏々、秋々、冬々、春夏、夏秋、秋冬、冬春

四種の試みを終えた後、本香は結んだまま打ち交ぜ、一組ずつ二包を順に炷き出します。(計十六炷)
一組二包の聞きに応じて、以下の名目の札一枚を打ちます。

春々と聞くは 帰帆の札
夏々と聞くは 夜雨
秋々と聞くは 秋月
冬々と聞くは 晴嵐
春夏と聞くは 晩鐘
夏秋と聞くは 夕照
秋冬と聞くは 落雁
冬春と聞くは 暮雪

記録紙には点と星を記します。
一人聞きは八点、二人聞きは二点、三人より一点づつ。
一人聞かずは八星、二人聞かず二星、三人より一星づつ。
全当りには八景と書きます。

◆記録紙
| 春夏 秋冬 春春 秋秋
| 夏夏 冬冬 夏秋 冬春

名 夜雨 晩鐘 落雁 秋月 〇点
| 暮雪 晴嵐 夕照 帰帆 〇星

名 晩鐘 落雁 帰帆 秋月 〇点
| 夜雨 晴嵐 夕照 暮雪 八景

◆メモ
八景[落雁・帰帆・晴嵐・暮雪・秋月・夜雨・晩鐘・夕照]の景色を、春・夏・秋・冬にそれぞれ二つずつ分けることも可能でしょうが、春夏・夏秋・秋冬・冬春のように季節の移ろいを想像させるところに、この組香のスケールの大きさと妙味を感じます。

因みに「江戸八景」は以下の通りです。(出典:国立国会図書館デジタルコレクション)
愛宕山の秋の月
芝浦の帰帆
日本橋の晴嵐
忍丘の墓雪
上野の晩鐘
隅田川の落雁
両国橋の夕照
吉原の夜雨

情景が浮かんでくるような八景です…。(^^)