野分

9月になりました。
昨日は、雑節の「二百十日」。
立春から数えて二百十日目に当たる日で、ちょうど中稲(なかて)の開花期で、台風襲来の時期にあたることから、農家では厄日として警戒する、と辞書などにはあります。

この時期に、風を鎮め、豊作を祈る行事として催されるのが「風祭」。
富山・八尾町の「おわら風の盆」もその一つで、台風の無い平穏な、実りの秋を祈って、毎年9月1日から3日まで行われています。
お盆に続いて行なわれるところから「風の盆」と云われるようです。

奇しくも、非常に強い台風11号が先島諸島の近くにあり、これから北上するとのことで、先島諸島では厳重な警戒が呼びかけられ、その影響は本州の各地にも出ています。
今後の進路が心配されるところです。

「台風」の文字は、明治四十年に学術的に定義付けられたのを受けて大正時代から一般化した「颱風」の書き換えとか…。
今でこそ「台風」ですが、平安時代の昔から用いてきた言葉は「野分(のわき)」。
文字通り、野の草を分けて吹き通る風の意、と辞書にはあります。

その「野分」を題材にした組香に「野分香」があります。
仲秋(旧暦八月)に当たるこの時期に催される組香で、2017.9.14付けのblogで一度紹介しています。

◆香は四種
野分
として 五包で内一包試
夕霧として 三包で内一包試
明石として 同断
仲秋として 二包で無試

◆聞き方
野分、夕霧、明石の試みを聞いた後、
出香十包(野分4、夕霧2、明石2、仲秋2)を打ち交ぜ、内より二包を除き八包にして炷き出します。

◆記録紙
二炷ずつの4組(双)と考えて、当りには名目を点数の上に書きます。
全四双の当りには 野分
三双の当りには  夕霧
二双の当りには  明石
一双の当りには  苅萱
片当りには    村雲
無聞の人には   村雨

◆記録紙(例)
| 夕 明 仲 野
|  野 明 野 夕
名 夕 明 仲 野  野分 全
|  野 明 仲 夕

「野分香」は、『源氏物語』の「野分(のわき)」を題材にした組香となっています。
「野分」では物語の進行に夕霧(源氏の息子)の存在が大きく関わっていて、八月(仲秋)に野分(台風)が吹き荒れた日とその翌日、風見舞いに六条院を訪れ、秋好中宮、明石の君、玉鬘、花散里などを見舞っています。

台風(野分)は激しい風、雲、雨を伴い、草花は倒れ、建物も被害を受けるのが常です。
名目として与えられる「苅萱」「村雲」「村雨」は、何れも原文の中に出てくる言葉となっています。

「暁方に、風すこししめりて、村雨のやうに降りいづ。……」

「風騒ぎ村雲まがふ夕にも忘るゝ間なく忘られぬ君」と詠んだ歌を、夕霧は「吹き乱れたる苅萱につけ」ています。

『源氏物語』はタイヘンです。ハイ。(^^)

この時期、コナラなどの木の下に、ドングリと数枚の葉を付けた枝先がたくさん落ちています。
決して、台風(野分)のせいではありません。(^^)

よく見ると、ドングリには小さな穴があいていて、これはハイイロチョッキリというゾウムシが卵を産み付けた痕だそうです。

枝を切り落としたのはハイイロチョッキリ。
種族保存活動の賜物です。(^^)