伊藤宗観さんを偲んで

名古屋茶道界を牽引してこられた裏千家業躰(ぎょうてい)伊藤宗観さんが一昨日25日にお亡くなりになったという報に接しました。(享年88歳)

謹んでご冥福をお祈りいたします。

宗観さんが席主の大寄せ茶会には何回か参席させていただきましたが、柔和な語り口と笑顔、漂う品の良さが深く印象に残っています。
大寄せでの道具組は本流でありながら洒脱、お客に楽しんでもらおうというサービス精神があふれていたように思います。

3年前、八勝館での濃茶席で供された松柏園(升半)のお茶は、色、練り、照り、味が得も言われぬほどの絶品でした。
宗観さんが「とにかく、挽き立てのお茶をお願いしました!」と笑顔でおっしゃっていたことを昨日のことのように思い出します。

宗観さんのお茶席は当ブログで紹介した記憶があり、検索窓で検索してみたところ2件ありました。
お茶席の雰囲気をお伝えできるかもしれないと思い、記事をそのまま再掲することにしました。

🔳2018年5月12日「豊国神社献茶会五月月釜」
今日は、秀吉が祀られている名古屋・豊国神社の例祭「太閤祭」の日でした。

太閤祭に合わせて催された「献茶会」では、志野流家元・蜂谷宗玄宗匠が「献香」と「献茶」をご奉仕になり、蜂谷宗苾若宗匠が介添えをお勤めになりました。
式は滞りなく厳粛にとり行なわれました。

五月の月釜としては、志野流・蜂谷宗玄宗匠と裏千家・伊藤宗観氏のお二人が担当されました。

志野流のお席の床に掛かっていたのは一行竪物で「聖朝無棄物」(せいちょうにきぶつなし)。
宗代の詩人陳師道(ちんしどう)の句で、「聖人のおさめる世にはすたる物はない」の意と『茶席の禅語大辞典』(淡交社)にはあります。

裏千家の伊藤宗観氏のお席は、遊び心に満ち満ちた究極の取り合わせと云ってもいい程のお道具ばかりでした。
お席の趣向はすべてが「鵜飼」に繋がっていて、一つのストーリーがお見事に出来上がっていました。

奇しくも、昨日は長良川鵜飼の初日で、道具組にはまたとない絶好の巡り合わせとなったようです。
※道具の取り合わせを一番楽しまれたのは、恐らく席主の伊藤宗観氏ではなかったかと、私は勝手に想像しています。

鵜飼と云えば、昨年は「鵜飼香」のblog記事にお熱を挙げた事、「鵜匠の家・足立」で鮎料理を堪能したことなど、昨日の事のように思い出します。

私的には、篝火を焚くことの意味合いを計りかねていたのですが、鮎が光に驚いて上流に向かって走り出す習性を利用して、下流に向う鵜船から待ってましたとばかりに鵜が捕まえるとのHP解説を読んだ時にはいたく納得したものです。

さてさて、お席のお道具の幾つかを思い出すままに記します。

・本席の床掛物は横物で「魚跳」。禅語の「魚跳万仭峰」からで、読みは「魚(うお)は跳ぶ万仭(ばんじん)の峰」。
『茶席の禅語大辞典』には「海にいるはずの魚が万仭の高さの山中におどる。言葉も思考も届かない次元の情景」とあります。

・竹花入の銘は「長良川」。(花は大山蓮華)

・薄板は波模様蒔絵の丸香台。

・お菓子は鵜籠に見立てた籠の中に焼鮎。(席主からは「アツアツの鮎」との声あり!)

・煙草盆は鵜船の形。煙草入れは屋形船。

・水指は大樋の飴釉船形。

・寄付きの掛物は宜永さんの「鵜飼」の絵。

・香合は松の「鵜」。

・釜敷は鵜綱を編んだもの。

・羽箒は鵜羽。(この羽箒をお月見に使うなら、鷺の羽根を一枚加えれば、鵜鷺=兎で遊べますとの言葉あり!)

・火箸は艪型。

・茶碗は「さざれ石?」、茶杓は「河瀬の石?」だったような…。

・その他、棗・仕服(浪の絵)・釜などにも、フ~ンと唸るような説明が多々ありましたが、とても記憶力がついていきません。

寄付きに展示されているお道具の最後に置いてあったのは、お水がはいったペットボトル。

なんとなんと、ボトルのラベルは「長良川」。

メチャクチャ楽しいお席でした。

そうそう、席主さんのジョークをもう一つ思い出しました。

「鵜はウナギにはどうやら難儀をするようで、鵜難儀=うなぎと云うんだそうです。(笑)」

こんな楽しいお席は滅多にありません。

🔳2019年11月24日「秋季茶会」
錦秋の一日、名古屋・八事の「八勝館」で催された東海茶道連盟の「秋季茶会」に行ってきました。
紅葉が美しいお庭を望むように三席が設けられ、終日賑わっていました。

席主さんは、濃茶席が裏千家・伊藤宗観氏、薄茶席が表千家・小栗宏子氏、薄茶(野点)席が志野流・蜂谷なをみ氏でした。
各席とも趣向を凝らした道具組となっていました。

お菓子はそれぞれ椿餅(川口屋)、悠久(両口屋是清)、山路の色(松華堂)で何れも美味でした。

個人的に一番嬉しかったのは、濃茶席の待合に掛けられていた「三船の図」(光文筆)。
「三舟の才」の故事に因む画だったので、思わず喜んでしまいました。

赤紅葉が映える嵐山・大堰川に浮かぶ三船に向って川岸から源経信でしょうか、船を呼び戻すように佇んでいる構図となっていました。
三船は龍頭鷁首(りゅうとうげきしゅ)の二隻と御座船の一隻のように見受けましたが…。

盤物組香「三舟(さんしゅう)香」を思い出してしまいました。

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合掌