五合十筋

聞香炉の灰点前の中に、灰を掻き揚げ、灰押えで面を整えた後、火箸で五面に各十本の筋を付ける手順があります。(志野流)

五面に分けるのは[木火土金水]の五行説に因んでいるものと理解していますが、十本の筋(十筋)についてはイマイチその謂れ・理由が分からないままでした。

古書『香道規範』には様々なことが記されていますが、灰之部の中に香炉三足の灰には真・行・草の三つがあり、真は灰を押えて五合に割り十筋(小数十)を付けるように書かれています。

そして、この数は次の数によるとあります。

天一生水地六成之
地二生火天七成之
天三生木地八成之
地四生金天九成之
天五生土地十成之

一見したところ、天・地、一~十、五行説の[木火土金水]、そして生・成の組み合わせであることは解りますが、意味となると良く分かりませんでした。

何となく、易に関係していそうな気がして調べたところ、『易経』の「繋辞上伝」第九章の中に、該当する文言がありました。
明治書院発行の新釈漢文大系『易経』(下)から該当部分を以下に引用します。

天一、地二、天三、地四、天五、地六、天七、地八、天九、地十。
〔読み下し〕天は一、地は二、天は三、地は四、天は五、地は六、天は七、地は八、天は九、地は十。

〔通釈〕数には奇数と偶数があり、奇数は天(陽)に属し、偶数は地(陰)に属する。そこで数の基本である一から十までの数についていうと、天は一、地は二、天は三、地は四、天は五、地は六、天は七、地は八、天は九、地は十、ということになる。

〔語釈〕(一部を抜粋)
さて、「天一、地二、……」については、古くから解釈は多様であった。漢の鄭玄は「天一は水を北に生じ、地二は火を南に生ず。天三は木を東に生じ、地四は金を西に生ず。天五は土を中に生ず。陽に配せらるものなく、陰に耦せらるものなければ、未だ相成るを得ず。地六は水を北に成して天一と并(なら)ぶ。天七は火を南に成して地二と并ぶ。地八は木を東に成して天三と并ぶ。天九は金を西に成して地四と并ぶ。地十は土を土を中に成して天五と并ぶなり」(孔広林『通徳遺書所見録』)とする。
つまり、まず天一~地十を五行と方位に対応させ、ついで前半の天一~天五を世界・宇宙を生みだすの数ととらえ、後半の地六~地十を世界・宇宙を生育するの数とする。天地はそれぞれ奇数偶数に対応しているが、それらの奇数と偶数とがたがいに一対一対応するすることによって、世界・宇宙は完璧に生成し、完成するとするのである。五行思想を根底に、宇宙生成の原理を数(数には原理・法則という意味もある)においてとらえようとしたのであった。(抜粋終)

上記によると、例えば「天一生水地六成之」(天一は水を生じ、地六は之を成す)は、「天一は水を北に生じ、地六は水を北に成して天一と并ぶ」ということになりそうです。

なるほど!と思いつつも、一体何のこと?と思わないでもありません。

ただ、最後のセンテンス「五行思想を根底に、宇宙生成の原理を数においてとらえようとした」ことについては納得です。

これまで、様々なメディアを通して、家元が「香炉の中に宇宙がある」と発信されてきた意味が、数字の上からもやっと分かったような気がします。(^^)

因みに、聞香炉の三足は天・地・人を象っていると云われています。

【資料】<方位関連図>

五行

図には余分なものも入っています。
記事に直接関係するのは[木火土金水]と「東南中西北]です。