聞香始
令和6年の志野流香道「聞香始(もんこうはじめ)」が昨日8日から家元・松隠軒で始まっています。
今日の中日新聞朝刊に記事(写真付)が載っていました。
※写真は上記記事の右側に付属
薄茶席・聞香席・点心席(福引付き)で新春を寿ぐ例年通りの行事です。
薄茶席の掛物は、NHK大河ドラマ「光る君へ」にあやかって?、紫式部集切の和歌で定家筆のもの。
聞香席「松竹梅香」の香三種の香銘は(初春・淡雪・千代のこえ)と聞いています。
今年も心新たに伝統芸能・芸道の世界を楽しみたいと思っています。 (^^)
香は仏教と共に伝来したことから、香を聞くことは仏法を聞くことと同じ、と何処かで聞いたような覚えがありますが、そこまではとてもとても……です。
先ずは、香りを聞くことに集中する心根を持ちたいと思っていますが、なんだか雑念が沸々と…。
◆「心清聞妙香」
大雲寺賛公房四首 大雲寺(だいうんじ)の賛公(さんこう)の房(ぼう)四首(ししゅ) 杜甫
其の三
燈影照無睡 心淸聞妙香
夜深殿突兀 風動金琅璫
天黑閉春院 地淸棲暗芳
玉繩迥斷絶 鐡鳳森翺翔
梵放時出寺 鐘殘仍殷牀
明朝在沃野 苦見塵沙黄
燈影照無睡 灯影(とうえい)照(て)らして睡(ねむ)る無(な)く、
心淸聞妙香 心(こころ)清(きよ)くして妙香(みょうこう)を聞(き)く。
夜深殿突兀 夜(よる)深(ふか)くして殿(でん)突兀(とつこつ)たり、
風動金琅璫 風(かぜ)動(なぶ)りて金(きん)琅璫(ろうとう)たり。
天黑閉春院 天(てん)黒(くろ)くして春院(しゅんいん)閉(と)じ、
地淸棲暗芳 地(ち)清(きよ)くして暗芳(あんぼう)棲(す)む。
玉繩迥斷絶 玉縄(ぎょくじょう)迥(はる)かに断絶(だんぜつ)し、
鐡鳳森翺翔 鉄鳳(てつほう)森(しん)として翺翔(こうしょう)す。
梵放時出寺 梵(ぼん)放(はな)たれて時(とき)に寺(てら)を出(い)で、
鐘殘仍殷牀 鐘(かね)残(のこ)りて仍(な)お床(しょう)に殷(いん)たり。
明朝在沃野 明朝(みょうちょう)沃野(よくや)に在(あ)れば、
苦見塵沙黄 塵沙(じんさ)の黄(き)なるを見(み)るに苦(くる)しまん。
〔現代語訳〕灯火の明かりで寝つかれないが、心が澄み渡りお寺の香気が仏法の妙義のように感じられる。夜はふけ仏殿は高く聳え立ち、風になぶられて鈴鐸(れいたく)の音が涼しげだ。黒々とした空の闇に閉ざされる春の奥庭よ。また清らかなる大地の暗がりをねぐらとする花の香りよ。玉縄星(ぎょくじょうせい)は遥か天の彼方で途切れ、屋根の上の鉄の鳳凰は連なって飛び上がらんばかり。僧侶の朗唱する梵唄(ぼんばい)が高まって寺の外へと流れ出し、余韻を残す鐘の音は、なおこの寝床(ねどこ)に響いてくる。明朝この寺を辞して野に身を置けば、また薄汚れた砂塵に苦しむことになろう。
〔題意〕至徳二載(七五七)春、長安(陝西省西安市)の西市の南に接する懐遠(かいえん)坊の東南隅にあった大雲寺に宿し、賛公の歓待を受けての作。
※出典『杜甫全詩訳注(一)』(講談社学術文庫)