「六十一種名香」考
少し気になっていた香道書の一つ、杉本文太郎著『香道』(雄山閣)を図書館経由で見ることができました。
昭和59年発行となっていますが、昭和4年版の再・再版らしく、字体が古い旧漢字で読み易いとは言えない本です。
志野流の蜂谷宗由氏と御家流の三条西尭山氏の昭和44年日付の前書きが付いていて、当時としては注目された本ではないかと思います。
「六十一種の名香」の項目の所で、「ン…」という一文に出会いました。
「今はその銘のみを伝えて、燼滅に帰したものが多い。」
似たような内容を以前にも見たことがあります。
かって『月刊京都』に連載された蜂谷宗由「香道の心得-水無月-」の中で、六十一種名香の一つ<青梅>について記したくだりです。
「ところで六十一種名香は少なくとも五百年前の付銘木、しかも、香木は消耗されていく性質が故に、たとえ伝来していても微々たるをすぎない量になってしまっている。中には消滅して銘のみを残しているものさえある。「青梅」もその例にもれず、聞香は叶わぬ望みとなった。」
「六十一種名香」は、その道の人なら、誰でも一度は銘を見たことがあるほど有名な香木です。
同本には、以下の名があります。
東大寺・法隆寺・逍遥・三芳野・紅塵・古木・中川・法華経・盧橘・八橋・園城寺・似・富士煙・菖蒲・般若・鷓鴣班・楊貴妃・青梅・飛梅・種ヶ島・澪標・月・龍田・紅葉賀・斜月・白梅・千鳥・法花・老梅・八重垣・花宴・花雪・明月・賀・蘭子・卓・橘・花散里・丹霞・花形見・上薫・須磨・明石・一五夜・隣家・夕時雨・手枕・有明・雲井・紅・泊瀬・寒梅・二葉・早梅・霜夜・寝覚・七夕・篠目・薄紅・薄雲・上馬/『香鑑』には玄宗を入れて、上馬を除いている。
名香は、秘してこそ名香なのかもしれません。
同本の中に「現在日本にあるなかで最大といわれている沈香」として、香老舗・日本香道所有の沈香の写真がありました。
昭和年代版の書物で、大きさ・重量のデータが書いてないのが残念ですが、一度お目に掛りたいものだと思います。