「水無月」に想う

京都・祇園祭の花、邪気を払う「ヒオウギ」の一番咲きです。

お気に入りの花の一つです。

今日は「水無月」三様です…。

①みなづき【水無月・六月】

『日本国語大辞典』で(みなづき)を引いてみると、【水無月・六月】として「(「みなつき」とも。「な」は「ない」の意に意識されて「無」の字が当てられるが、本来は「の」の意で、「水の月」「田に水を引く必要のある月」の意であろうという)陰暦六月の異称。」とあります。
更に、万葉集(8C後)10巻・1995の歌が引いてあります。

六月(みなつき)の土さへ割けて照る日にも吾が袖乾(ひ)めや君に逢はずして

『日本古典文学大系』(岩波書店)によると、歌は次のようです。
六月之 地副割而 照日尒毛 吾袖将乾哉 於君不相四手
〔意味〕盛夏六月の大地までも割けるほどに照る太陽にも、私の袖は乾くことがあろうか、あなたに逢わずには。

み【水】は「水(みず)」の意味ですが、多くは熟語となっています。
み-な-かみ【水上】、み-な-そこ【水底】、み-な-も【水面】、み-な-くち【水口】、み-な-と【水門】、たる-み【垂水】の類です。
確かに、「な」は「の」の意味となっています。

「の」の意味の「な」を「無」とし、(み-な-つき)を【水無月】と表記した(表記するようになった)のは一体何時ごろなのでしょうか?
これは大変興味深いことではありますが、私の手には負えません。
こんな時は逃げるにしかず、ということで、深入りはしないことにしました。(^O^)

でも、歌にある「盛夏六月の大地までも割けるほどに照る太陽」がちょっぴり気になり、旧暦六月はいったい現行グレゴリオ暦(新暦)の何月頃に相当するのだろうか、ということを少し調べてみました。(悪い癖です!)

②旧暦六月

陰暦は月の運行を基にして作られた暦で、新月から次の新月までの約29.5日、小の月29日と大の月30日を設けた暦で、陰暦の一年は354日となります。
これは現行グレゴリオ暦の一年365日より11日も短いので、陰暦の月は太陽の運行、即ち季節(現行グレゴリオ暦の月)とはどんどんずれて行くことになります。
そこで、陰暦に閏(うるう)月を適宜挿入することによって(19年に7回の割合)、季節(太陽の運行)との大きなずれを防ぐようにした暦が、大まかに旧暦と呼ばれているものと理解しています。

二十四節気と呼ばれる節目は、太陽の運行に基づくもので、旧暦と季節とのずれを補正する目安とするために、昔々から旧暦と併用されてきました。(二十四節気は、太陽の運行、太陽暦に基づいています!)
実は、旧暦の月には必ず含まれる二十四節気は夫々決まっていて、[中気]と呼ばれている十二の節気です。
例えば、旧暦の基準となる旧暦十一月には必ず「冬至」(12月21日頃)が含まれます。(逆に云うと「冬至」を含む月が旧暦十一月)
そして、旧暦六月には必ず「大暑」(7月23日頃)が含まれるといった具合です。
(月の運行は、新月から次の新月まで約29.5日ですから、その間に[中気]が含まれない場合があり、その月は「閏月」となります。)

めちゃくちゃアバウトな単純計算です。
旧暦六月には必ず「大暑」(7月23日頃)が含まれることから、
「大暑」が旧暦六月一日なら、旧暦六月は現行グレゴリオ暦の7月23日頃~8月22日頃
「大暑」が旧暦六月三十日なら、旧暦六月は現行グレゴリオ暦の6月24日頃~7月23日頃、
となります。

単純計算からは7月23日±30日頃となり、梅雨時から梅雨明け、真夏のカンカン照り、更に立秋(8月8日頃)後まで含まれる場合があります。
実際はどうだったのでしょうか?
過去20年間の、旧暦六月一日と末日(29or30日)が、現行グレゴリオ暦の何月何日になっているかという変換データです。(Webサイト「こよみのページ」様に感謝・感謝です!)
注意すべきことは、旧暦六月には「大暑」(7/23頃)が必ず含まれることです。

|   六月一日~六月末日(★29、☆30)
2019年 7/03  7/31(★)
2018年 7/13  8/10(★)
2017年 7/23  8/21(☆)
2016年 7/04  8/02(☆)
2015年 7/16  8/13(★)
2014年 6/27  7/26(☆)
2013年 7/08  8/06(☆)
2012年 7/19  8/17(☆)
2011年 7/01  7/30(☆)
2010年 7/12  8/09(★)
2009年 7/22  8/19(★)
2008年 7/03  7/31(★)
2007年 7/14  8/12(☆)
2006年 6/26  7/24(★)
2005年 7/06  8/04(☆)
2004年 7/17  8/15(☆)
2003年 6/30  7/28(★)
2002年 7/10  8/08(☆)
2001年 7/21  8/18(★)
2000年 7/02  7/30(★)

データを見ると随分と幅があります。
2017年は閏五月があり六月一日が大暑(7/23)、2006年は六月末前日が大暑(7/23)でした。
アバウト的には、旧暦六月は現行グレゴリオ暦(新暦)7月上旬から8月上旬といったあたりでしょうか。(あくまでもアバウト!)
一般的に、旧暦は新暦(現行グレゴリオ暦)のほぼひと月遅れと云われるのも頷けるようなデータとなっています。

最初に記したように、みなづき【水無月・六月】は『日本国語大辞典』によると「(「な」は「ない」の意に意識されて「無」の字が当てられるが、本来は「の」の意で、「水の月」「田に水を引く必要のある月」の意であろうという)陰暦六月の異称。」となっています。

一方、昭和の時代に京都で創られたという和菓子「水無月(みなづき)」はどうなのでしょうか。

③夏越の祓「みなづき(水無月)」

6月中旬、早々に食した和菓子「水無月」ですが、京都・菓子舗「仙太郎」の「みなづきー和菓子歳時記-」(下図)には、以下のように記してあります。

「書いて字の通り、水の無い六月、その昔(旧暦)は水が乾上がる程の日照りがつゞく真夏の天候だったのであろう。今(新暦)では梅雨の真最中。
私共の丹波工場(製あん)の裏山には、氷室(ひむろ)の跡地がある。(中略)
旧暦六月、夏の暑い盛りに氷を掘り出し宮中へと運び、夏の健康のため、氷のひとかけを食したという。しかし、何といっても当時、夏の氷はあまりにも貴重品。庶民はくちにすることはおろか、目にすることもできなかった。
そこで誕生したのが「みなづき」。氷の結晶に似せた三角のお菓子。台は外郎で氷をあらわし、上には小豆を散らして魔除けの意とした。(豆が魔滅に通じる処からか?)
六月三十日、夏越の祓いの神事にちなんで、今なお京都の人が「みなづき」を食べるならわしには、このような歴史的背景がある。(以下略)」

ところで、名古屋・両口屋是清の「みなづき」は、6月29・30日の両日販売と聞いています。
楽しみです。(^O^)

さて、さて、「水無月」はどちらの方がお好みでしょうか…。