「白露」なのですが…

今日は(から)二十四節気の一つ「白露(はくろ)」。
暦には「朝夕少し涼しくなり、草木の葉に白い露が宿るようになる。まだ気温の高い日もあるが、秋がゆっくりと近づいたと感じられる。草むらでは虫の音が涼しさを一層濃くしている。」とあります。

今日の名古屋の気温は真夏に逆戻りで、最低気温は25℃超えの熱帯夜、最高気温は35℃超えの猛暑日でした。
これでは、草木に露など宿りようがありません。

植込みに目をやれば、葉陰に薄紅色の花弁らしきものが見えました。
「ひょっとして…」
椿の品種「西王母(せいおうぼ)」の一番咲きでした。
花弁が随分傷んでいますが、既に開いているので開花は二、三日前だったかもしれません。
早咲きの品種ではありますが、余りにも早過ぎる開花です。

仙女「西王母」といえば、長寿を願う漢の武帝に、三千年に一度花をつけ実がなるという仙桃を与えたと云う伝説があります。
また、女の仙人を束ねるのは西王母、男の仙人を束ねるのは東王父と云われ、どちらも椿の品種になっています。

西王母と聞くと、真っ先に思い出すのが組香【三千年(みちとせ)香】です。

◆香は五種
一として 一包で無試
二として 二包で無試
三として 三包で無試
四として 四包で無試
五として 五包で無試

◆聞き方
全十五包を打ち交ぜ炷き出します。
※十五炷と数が多いので、最後はどうしても数合わせになってしまいますぅ…。(^O^)

◆証歌
三千年になるてふ桃の今年より 花さく春にあふぞうれしき

尤も「詩歌をちこち」では、歌の出処として次の歌を記したような覚えがあります。

|『拾遺和歌集』巻第五 賀 288
| 亭子院歌合せ   みつね
みちとせになるてふもものことしより 花さく春にあひにけるかな

ところで、西王母にまつわる伝説には、もう一つ嫦娥(じょうが)の伝説があります。
嫦娥は月に住む仙女。
夫の羿(げい)が西王母からもらい受けた不死の薬を盗んで飲み、月に入ったという伝説があります。
そう云えば、中国の月探査機に付けられた名前は嫦娥1号~嫦娥4号でした。

明日9月9日は、最も大きい奇数(陽数)九が二つ重なる目出度い「重陽の節供」の日。
別称は「菊の節供」。
でも、菊が咲くのはまだまだ先です。

元々は旧暦九月九日の行事でした。
明治五年の改暦に伴なって、五節供はそのまま新暦の日付にスライドされたため、9月9日が「重陽の節供」になってしまいましたが、どうしても季節感にずれが生じてしまいます。

旧暦九月九日にあたるのは、今年は10月7日。
10月の声を聞けば、菊も開花の時を迎えそうです…。(^O^)

詩歌をちこち 【替暮春香】  

|①『古今和歌集』巻第二 春歌下 105
|  題しらず   よみ人しらず
鶯のなくのべごとにきて見れば うつろふ花に風ぞふきける
〔大意〕鶯の鳴く、あの野この野へと来て見ると、どこの野辺でも、衰え散る花に風が吹いていたよ。

|②『古今和歌集』巻第二 春歌下 108
|  仁和の中将のみやすん所の家に歌合せむとてしける時によみける   藤原のちかげ
花のちることやわびしき春霞 たつたの山のうぐひすのこゑ
〔大意〕花の散ることがわびしいのか。春霞のたつ竜田山の鶯の声よ。

|③『古今和歌集』巻第二 春歌下 128
|  やよひにうぐひすのこゑのひさしうきこえざりけるをよめる   つらゆき
なきとむる花しなければうぐひすも はては物うくなりぬべらなり
〔大意〕鳴くことで散るのを引きとめようにも、その花さえないので、鶯も、さすがに結局つらくなって鳴くのもいやけがさしたとみえる。

*和歌出典『新編国歌大観』(角川書店)
*大意出典『新日本古典文学大系』(岩波書店)
※藤原後蔭(ふじわらののちかげ)
※紀貫之(きのつらゆき)