中秋の名月に思う
今日は旧暦八月十五日、中秋の名月の日。
里芋の収穫期に当る?ことからか、芋名月とも云われている日です。
里芋、お神酒、芒などを月下にお供えし、月を愛でる日となっています。
お店には、里芋の形を模したと思われるお団子が「月見団子」と称して販売されていました。
習いに従って、月下に少しばかりのお供えです。
お花は「お月見セット」で便利することにしました。
肝心のお月さまです。
午後8時ごろの十五夜の名月です。(満月は明日とか…)
夕方は雲に覆われていて、今夜は見えないのではないかと心配していましたが杞憂でした。
名月と聞いて、頭に思い浮かんだことを断片的にいくつか挙げたいと思います…。
1.かぐや姫(出典『日本国語大辞典』)
「「竹取物語」の女主人公。竹の中から生まれ、竹取の翁夫婦に育てられて輝くばかりの美しい姫に成長。多くの貴公子の求婚を、難題をもちかけてしりぞけ、帝のお召しにも応じないまま、八月の十五夜、月からの使者に迎えられて昇天する。」
知らない人はいないお馴染のお話です。
2.兎(出典『日本国語大辞典』)
「仏典に典拠を持つ「今昔物語-巻第五・十三」には、帝釈が化した老人をもてなすために、兎が我が身を焼いて供する説話が見える。死後兎はその誠実さをたたえられ月に住むことになるが、この説話は講経談義の場においてさかんに語られ、「月の中で兎が餅をついている」という伝説はこれらを通じて流布されたらしい。」と同辞書にはあります。
『今昔物語』巻第五・十三には、兎、狐、猿が登場し、兎は食べ物を持ってこなかったため、然らば我が身を焼いて食いたまえ、と云って火の中に飛び込んで焼死するのですが、天帝釈が元の形に戻し、火に入りたる形を月の中に移したとあります。
月の面に雲のような物があるのは、この兎の火に焼けたる煙で、また月の中に兎があるというのはこの兎の形であるので、万人、月を見る毎にこの兎の事を思い出すべし、とも書いてあります。
昔々、と云ってもつい半世紀前?までは、「月の中で兎が餅をついている」話は決して?絵空事ではなかったような気がしていますが、宇宙科学技術の発達に伴い、現在では月の裏側まで明らかになってしまいました…。
3.童謡
野口雨情作詩の童謡に「十五夜お月さん」がありました。
♪十五夜お月さん ご機嫌さん ……
4.三五夜中新月色
八月十五日の夜、白居易が宮中に一人で宿直し、中秋の名月を見て、元稹(げんしん)を憶って詠んだ詩があります。
「詩歌をちこち」では【新月香】でとりあげた句です。(2019.02.13)
|『白氏文集』巻第十四
| 八月十五日夜、禁中獨直、對月憶元
三五夜中新月色 三五(さんご)夜中(やちう)新月(しんげつ)の色(いろ)、
二千里外故人心 二千里(にせんり)外(ぐわい)故人(こじん)の心(こころ)。
〔現代語訳〕今夜は十五夜、みやこ長安の地平に、いま大きな満月が姿をあらわしたところです。二千里のかなたにあるわが親友(元稹)も、この同じ月をながめていることだろうが、いったいどんな気持ちでいるのでしょうか。
*出典『和漢朗詠集 全訳注』(講談社学術文庫)
※三五夜=十五夜(3×5=15)。新月=出たばかりの満月。故人=旧友。元稹(げんしん)を指す。
5.じょうが【嫦娥】
月の世界に住むといわれる仙女。転じて月の異称。(出典『日本国語大辞典』)
元は羿(げい)の妻でしたが、羿が西王母から得た不死の薬を盗んで飲み、月に逃げたと云う仙女です。
因みに、中国の月探査機の名称には「嫦娥」が使われています。(嫦娥1号~嫦娥4号)
6.かつらおとこ【桂男】
月の世界に住んでいるという伝説上の男。かつらお。《季・秋》(出典『日本国語大辞典』)
辞書には、「月の中に高さ五〇〇丈の桂があり、その下で仙道を学んだ呉剛という男が、罪をおかした罰としていつも斧をふるってきりつけているが、きるそばからそのきり口がふさがる、とある伝説による。」とあります。
かって、冷泉家の見学会で床の掛物が「桂男」の画賛であったことを思い出します。
因みに、かつら【桂】には「中国伝説で、月の世界に生えている木」という意味もあります。
『日本国語大辞典』から、桂の派生語をいくつかあげてみます。
・かつらの影…月の光。月の姿。
・かつらの花…月の光。月。
・かつらの眉…三日月のような細い美しい、女の眉。
・かつらの黛…三日月のような形に細く眉をひいた墨。また、その眉。
・かつらの都…月の都。
・かつらを折る…(すぐれた人材を桂の木の枝に例えた故事から)昔、官吏登用試験に及第すること。
「かつらを折る」は、漢字では「折桂」ということになりそうです。
「折桂」と云えば、志野流香道で用いられる本香炉の一対「丹桂・折桂」の香炉を連想させます。
香炉の外周には、染付で三面の画が描かれ、各画の間に言葉が書かれています。
正面は両方とも「お一人様」。
その左側に「丹桂」の香炉の方には「丹桂一枝香」の言葉が、「折桂」の方には「折桂一枝香」の言葉があり、この文字以外は画・言葉とも二つの香炉に違いはありません。
香炉の画と言葉をぐるり眺めてみると「桂を折る」意味もなんとなく解ってくるような気がします…。
因みに、本香炉を乱箱に入れた始めの状態は、乱箱に向かって左側に丹桂、右側に折桂の香炉を置く、と学んだ覚えがあります。
また、添え香炉は全て「折桂」の方でした…。
そうそう、月見と云えば、香道の組香に「月見香」や「名月香」などがありました。
「月見香」は名目として十五夜、十六夜、水上月、木間月などなど、さまざまな月の情景が楽しめる組香となっています。
また、四十組の「名月香」は最も簡単な組香として知られています。
夏の暑さもようやく収まり、いよいよ秋月が話題に上る季節になりました…。
それにしても、今年の夏もまた暑い夏でした。(^O^)
詩歌をちこち 【初瀬香】
|『新後拾遺和歌集』巻第七 雑春歌 609
| 源詮政
初瀬山花のあたりはさやかにて よそよりくるる入あひの鐘*和歌出典『新編国歌大観』(角川書店)
※源詮政