更衣香

6月の声を聞いてから、少しずつ日常の風景が戻ってきているように感じます。
小学生の集団登下校の列、自転車通学の高校生の姿などを目にすると、長かった「コロナ春休み」がひとまず終わった?ことを実感します。(安心はできませんが…)

行き交う高校生の制服はすっかり半袖の夏服に替わっています。
夏服は見るからに清々しく、気持ちが明るくなります。
以前は6月1日が衣替えとなっていたように記憶していますが、いつごろからか前後一週間ぐらいの幅を持たせて、夏服にするかどうかは各自に任されているようです。

衣がえ・更衣は昔から行われていて、季節が夏となる旧暦四月は衣がえの時季でした。
今年なら、旧暦四月一日にあたる日が4/23、立夏は5/5でしたから、とっくに更衣は済んでいることになります!
『拾遺和歌集』夏81に「更衣」を詠んだ源重之の歌があります。
川口久雄『和漢朗詠集 全訳注』(講談社学術文庫)146から引用します。

花の色にそめしたもとの惜しければ 衣かへうき今日(けふ)にもあるかな

〔現代語訳〕今日、四月一日からは、夏の薄衣に衣がえをしなくてはなりません。けれど、せっかく桜色に染めて着た春の衣を脱いでしまうのが惜しいので、着替える心が重いのです。

〔語釈〕花の色にそめし……  桜がさねの衣。表白く裏あさぎ。紅の単(ひとえ)、紅梅のうわぎ、蘇芳の小袿、桜山吹の色目の衣は三月まで着るという(『装束集成』女官装束、桜襲)。■

香道には、上記の歌を引いた組香として「更衣香」があります。
志野流香道の組香目録には載っていませんが、大外組の中にある組香です。

【更衣香】
香四種
夏衣 として 三包に認め内一包試
卯花衣として 右同断
更衣 として 四包に認め内一包試
花染衣として 一包に認め無試

◆聞き方
①三種の試み終えて、先ず最初に、更衣二包に花染衣一包を打ち交ぜて聞きます。
試みに合せ名乗紙に書き付け出し、記録にうつして点を掛けます。
②次に、夏衣二包、卯花衣二包、更衣一包に、はじめ炷いた花染衣の炷きがらを元の包みに入れて加え、都合六包打ち交ぜて聞きます。
花染衣当りたる人には聞きの中段にうつり香と書き、当らざる人には衣かへと書き、記の奥に歌を書きます。但し、ウはつれそう一方当りは三月尽と書きます。

花の色にそめし袂のおしければ ころもかへうきけふにもあるかな

オカトラノオ【丘虎尾】の花が咲きだしました。
夏が来たことを実感する花の一つです。(^^)