雁金草・替住吉香

今日は七十二候の「玄鳥去(つばめさる)」。
つばめが南へ去って行く日(頃)となっています。
また、今日は旧暦八月一日(八朔)、暦の上では秋の真中「仲秋」に入ります。
今週に入ってから、朝夕はめっきり涼しくなり、日中も30℃以下が多くなり、随分と過ごしやすくなりました。

かりがねそう【雁金草】が次々と開花しています。
8月に先駆けが花開きましたが、今は花芽をつけている株は全て花を咲かせています。
株や葉に触ると、芳香とはいえない独特の匂いを発しますが、花はとても美しいと思います。
花の形を雁の飛ぶ姿になぞらえて、雁金草の名があるそうです。

「雁金」を香名とする組香の一つに【替(かわり)住吉香】があります。
香道志野流の組香目録には、三十組と四十組に同名の【住吉香】がありますが、同じ「住吉」を題材にして五十組に【替住吉香】があり、秋の組香となっています。

三十組と四十組の組香【住吉香】には題材となる歌があります。

三十組の【住吉香】の証歌
君が代の久しかるへきためしには 兼ねてそ植えし住吉の松

四十組の【住吉香】の証歌
我みても久しくなりぬ住吉の きしの姫まつ幾代へぬらん

なお、【替住吉香】に証歌はありません。

【替住吉香】

◆香は三種
松風として 三包で内一包試
月 として 同断
雁金として 二包で無試

◆聞き方
試みの香を聞き終えた後、雁金の二包を結び合わせ、松風・月の四包を打ち交ぜ、二包ずつ結び合わせ、以上六包を三組として一結びずつ取って炷き出します。
記紙の場合は、二炷ごとに次の名目で答えます。

月・松風 と聞けば 忘草 逆
松風・月 と聞けば 忘草 順
松風・松風と聞けば 松風
月・月  と聞けば 月
雁金・雁金と聞けば 雁金

◆メモ
住之江(住吉)の海辺の松原を渡る風、空にかかる月、そして飛ぶ雁、一つの絵になる秋の情景です。
特に「月に雁」は画題にもなっているところです。

この組香はとてもシンプルで答えやすいように思います。
雁金・雁金は無試とはいえ、同香ですから間違えるはずはありません。(多分…)

聞きの名目には「忘草(わすれぐさ)」があり、「えっ、忘れ草?」「住吉と何か関係があるの?」と意外な感じがするかもしれません。
実は、組香の証歌にはなっていませんが、住吉と忘草の深い関係を想起させる和歌があります。

『古今和歌集』巻第十七 雑歌上 917
あひ知れりける人の、住吉にまうでけるに、よみて、遣はしける  壬生忠岑

住吉と海人は告ぐともながゐすな 人忘草おふといふなり

〔大意〕「住吉」の地はその名の通り「住み好」い所だと、漁師は知らせても、「長居」というその地の名の通りに「長居」はしなさんなよ。そこは人を忘れるという忘れ草が生い育つということだ。

〔出典〕和歌・大意とも『新日本古典文学大系』(岩波書店)。

忘れ草は同書の脚注によると「ヤブカンゾウ、ユリ科の一種、萱草。万葉集以来の景物。」とあります。
『広辞苑』を引くと、わすれぐさ【忘れ草・萱草】は「ヤブカンゾウの別称。身につけると物思いを忘れるという。」とあります。
なお、藪萱草の花は、ユリに似た橙赤色の八重咲きで一日花です。

住吉と云えば住吉大社。
昔から航海の神として、また和歌の神として、「住吉の神」が祀られている神社となっているようです。

以上、【替住吉香】でした。
元は札を用いる組香のようですが、恐らく専用の札は手に入らないと思われます。
十種香札あたりを転用すれば可能でしょうか…。

そう云えば今日の夕方、テニスコートの真上を数十羽の雁がV字形をなして南へと飛んでいきました。
この秋、初めて見る光景で、思わず雁行陣でのプレーを中断してしばし見とれてしまいました。(^O^)