歳暮香の名目

現行の新暦カレンダーでは、今年も残すところ3週間となりました。
結局、コロナは収束することなく、「新しい日常」生活を心がけていてもなお新規感染者が増え続けています。
どうやら、年を越すのは「年越し蕎麦」だけではないようです…。

年末のこの時季、香道では組香「歳暮香」が好んで行われているようです。
一年の締めくくりとしては、この上なくふさわしい組香のように感じられます。

「歳暮香」では聞きに応じて、様々な名目が用意されています。

例えば、出香の内の三包が[年・ウ・年]で三つとも聞き当たれば、名目として「年内立春」が与えられるなど、計15種の名目が用意されています。
この「年内立春」を見るたびに、よく考えられているというか、なんという遊び心なのだろうと、香人の知恵の豊かさには感心するばかりです。
「ウ」を「立春」と考えると、「年」の内に「立春」があることになり、絶妙なネーミングになっているからです。(^^)

年内立春、歳暮魂祭、老後歳暮、旅泊歳暮、山家歳暮、海辺歳暮、除夜歳暮、市中歳暮、羇中歳暮、歳暮述懐歳暮懐旧関路歳暮川辺歳暮旅宿歳暮雪中歳暮

上記の名目について、それぞれの意味や詩的な連想はそれなりに理解できるところです。

最初の「年内立春」は、年がまだ明けない旧暦十二月中に立春(2月4日頃)を迎えることをいいます。
在原元方の年内立春を詠んだ歌がよく知られています。

『古今和歌集』巻一 春上 1 在原元方
年の内に春は気にけり一(ひと)とせを去年(こぞ)とやいはむ今年とやいはむ

因みに、今年の立春(2月4日)は旧暦の一月十一日で「年明け立春」、来年の立春(2月3日)は旧暦の十二月二十二日で「年内立春」、即ち、旧暦ではこの一年の内に二回も立春があることになります。
「えっ?一年の内に立春が二回ある?」

実は、旧暦では一年の内に立春が二回あることは決して珍しいことではありません。
今年の場合は、旧暦四月の後に旧暦閏四月があったため、その分、旧暦の一年が長かったことが関係しています。

さてさて、上記の名目15種のうち、特に後の太字六種の名目については詩歌から採られているように聞いています。
『日本国語大辞典』を引くと、以下のような説明がなされています。

述懐
『懐風藻』(751)述懐<大友皇子>
五言。述懐<略>道徳承天訓、塩梅寄真宰

懐旧
『菅家分草』(900頃)三・冬夜閑居話旧
懐旧猶勝到老忘、多言且恐損中腸

関路
『後撰集』(951-953頃)離別1313
今はとて立帰りゆく古里のふはのせきちにみやこわするな(藤原清正)

・川辺
『日本書紀』(720)斉明四年五月・歌謡
射ゆ獣(しし)を認(つな)げカワヘの若草の若くありきと吾(あ)が思(も)はなくに

『古今集』雑上919
あしたづのたてるかはへを吹く風によせてかへらぬ浪かとぞみる(紀貫之)

旅宿
『菅家文草』(900頃)五送春
若便韶光知我意、今宵旅宿在詩家

雪中
『性霊集』(835頃)五
請福州観察使入京啓「但知。雪中枕肱、雲峯喫菜」

また、歳暮そのものについては次の説明がなされています。

・歳暮
『懐風藻』(751)望雪<紀古麻呂>
垂拱端坐惜歳暮、披軒褰簾望遥岑

辞書から引ける詩歌は上記の通りですが、なんだか小難しく感じられます。

どうやら、「歳暮香」を楽しむには、語源を追求するよりも直感的に名目から受ける印象を大切にしたほうがいいように思います…。

深入りは程々にしないと、疲れてしまいそうです。ハイ。(^^)

公園のクチナシ【梔子】の実が色づいて膨らんでいます。

癒されますぅ~。