いずれ菖蒲か杜若

何れ菖蒲(あやめ)か杜若(かきつばた)
どちらも優れていて優劣のきめがたい意。(広辞苑)

公園ではアヤメ、カキツバタ、キショウブが花盛りです。

※アヤメ【菖蒲】

※カキツバタ【杜若】

同じアヤメ科の花には、花菖蒲、アイリスなど多くの品種があるようです。

※キショウブ【黄菖蒲】

愛知県・刈谷市にある「小堤西池のカキツバタ群落」は国指定の天然記念物に指定されています。
刈谷市文化観光課発行の同パンフレットには、アヤメ、ハナショウブ、カキツバタの区別点が図示されています。

アヤメと云えば、香道の組香【菖蒲香】を思い出します。
先日、豊国神社月釜の聞香席で楽しませていただいた組香です。

[証歌]五月雨に池のまこもの水増していずれあやめと引きぞわずらふ

『日本国語大辞典』には「いずれ菖蒲」として、以下の説明があります。
(源頼政がぬえ退治で菖蒲前(あやめのまえ)という美女を賜わるに当たって、同じような美女十二人の中から菖蒲前を選ぶように命じられた時よんだ和歌「五月雨に沢辺の真薦水越えて何れ菖蒲(アヤメ)と引きぞ煩ふ〔太平記-二一〕によるという)どれもすぐれていて選択に迷うことをいう。

2019.10.1付けの『詩歌をちこち』で【菖蒲香】に引かれた歌の背景に触れたことがありました。
以下は、同記事のコピーです。

※『国民の文学11 太平記』尾崎士郎訳(河出書房新社)には、「塩冶(えんや)判官(はんがん)讒死(ざんし)事」の件が現代語訳であります。
上記の歌が詠まれたのは、病気で出仕をやすんでいた高師直(こうのもろなお)を慰めるために催した酒宴で、二人の検校が「平家」を詠った物語の一節に出てきます。
歌が詠まれるにいたった場面、経緯は省略しますが、頼政が詠んだ歌を聞いた近衛関白が感に堪えかね、みずから席を立って菖蒲の前の袖を引き、「これが、その方の妻じゃよ」と教えて頼政に賜わり、頼政は鵺(ぬえ)を射て弓矢の名を揚げたばかりでなく、一首の歌を詠んで.御感に叶い、年ごろ心ひそかに思いをかけていた菖蒲の前を手に入れたことは、まことに名誉なことである、と訳してあります。
物語はその後、菖蒲の前が本当に美しかったのかどうかの品定めが続き、侍従の女は、もし菖蒲の前が本当に絶世の美人であれば千人万人の女が並んでいようが頼政は見分けられないはずがない、などと続いています。

実は、頼政は美女十二人の中から、菖蒲の前を見分けていたのですが、あえて上記の歌を詠んだという見方があります…。

ところで、ショウブ【菖蒲】はサトイモ科の植物、アヤメ【菖蒲】はアヤメ科の植物で、漢字はどちらも【菖蒲】ですが二つは別物。
ショウブの葉は、端午の節句時に邪気を払い疫病を除くと云われる菖蒲湯でお馴染みです。(花は小花が密集した花穂状)
一方のアヤメは、その美しい花が専ら鑑賞の対象になっています。

ハナショウブ【花菖蒲】、キショウブ【黄菖蒲】などはアヤメ科でありながら〇〇ショウブと呼んでいます。
ややこしいです。(^^)

辞書を見ると、アヤメはサトイモ科のショウブの古名とあります。
してみると、ショウブ、アヤメの慣用はありありですね。(^^)