迦陵頻・真清田神社・小蝶香②

真清田(ますみだ)神社の舞楽神事において、思ってもみなかった舞楽・迦陵頻(かりょうびん)を見たことで、『源氏物語』-胡蝶の巻-を思い出し、連想ゲームのように胡蝶の巻から引かれている組香「小蝶(こちょう)香」へと繋がっていきました。

舞楽・迦陵頻に出あえたのは全くの偶然なのですが、偶然は必然ということもありますから、まぁ、何かの糸に引かれていたと云えるのかもしれません。

春の季節に遊ぶ組香の一つ「小蝶香」です。

◆香は四種

一として 三包で内一包試
二として 同断
紫上として 二包で無試
秋好中宮として 同断

◆聞き方

一と二の試みを聞いた後、
一、二の計四包に、紫上二包と秋好中宮二包の計四包から一包を除いた三包を加え、合計七包にして炷き出します。
なお、無試の紫の上と秋好中宮は最初に出た方を紫上とし、香数の違いからつるびで聞き分けます。

聞きに応じて、聞きの中段(点数の上)に次の名目が書かれます。
紫上を 中宮・中宮と聞いて当れば 下艸
中宮を 紫上・紫上と聞いて当れば 八重山吹
紫上を 紫上・紫上と聞いて当れば 花園
中宮を 中宮・中宮と聞いて当れば 小蝶

記録の奥には歌が書かれます。
紫上が多く(二炷)出れば、
花園の小蝶をさへや下艸に秋待つ虫は疎くみるらん
中宮が多く(二炷)出れば、
小蝶にも誘はれなまし心ありて八重山吹をへたてさりせは

※下艸、八重山吹、花園、小蝶の名目は歌からとられています。
※光源氏の正妻である[紫上]を、故六条御息所の娘である[秋好中宮]と聞いて当たった名目に「下艸」を充てるとは…、何んとも絶妙です。

◆メモ
円地文子『源氏物語』(集英社)の「胡蝶の巻」に記してあった【歌意】を引用します。

紫上(むらさきのうえ)が秋好中宮に送った歌。
花園の小蝶をさへや下草に秋まつ虫はうとくみるらむ
【お好きな秋を待つあなたには、春の花園の胡蝶をさえつまらないものとご覧になるでしょう】

秋好(あきこのむ)中宮が紫上に返した歌。
胡蝶にも誘はれなまし心ありて八重山吹をへだてざりせば
【八重山吹の垣の隔てがなければ、胡蝶に誘われて私もそちらに行きたかったのです】

胡蝶の巻のストーリー、上記の歌が詠まれた場面、六條院四季の町の構造、紫上と秋好中宮との身分の上下関係などなど、すべて省略して歌の部分だけ取り上げましたので、「どういうこと?」と疑問符が多々つきそうです。

円地文子『源氏物語』の該当部分には、「春を好む紫上のお心と、秋の好きな中宮の御胸がやさしく融け合って、楽しい春秋の争いとなった。」とあります。(矢張り「胡蝶の巻」を読むしかありません…)

【余談】
*六條院四季の町の再現模型は、京都・西本願寺前「井筒法衣店」併設の「風俗博物館」で、源氏物語の一場面を表す人形と共に展示されているのを見た覚えがあります。また、十二単を着た人形も別室に展示されていたように記憶しています。

梅花空木の一番咲きです。
良い香りがします…。

この花を見ると、組香「卯花香」を思い出し、春から夏へと移り変わる時季になったことを実感します。