推敲(すいこう)を重ねる

長く続いた梅雨空から一転、太陽がギラギラ輝く夏空となり、今日の名古屋の最高気温は34.8℃と猛暑日に迫る暑さとなりました。
京都・祇園祭後祭もBS8のLIVE映像を観ると、太陽が照りつける中での山鉾巡行で、御池通りの両側は団扇をあおぐ大勢の観光客で賑わっていました。
祇園祭は前祭(17日)も後祭(24日)も大盛況でした…。(^O^)

7月の和楽会は奇しくも祇園祭後祭の日と重なりました。
邪気を払うという祇園祭の花・ヒオウギが掛け花入れに入りました。

[詩歌をちこち]は回を重ねて、50回を超えています。
今日のテーマは「推敲」。

「推敲を重ねる」という言葉を聞くと、なんだか重々しく聞こえるから不思議です。
尤も、個人的には全く馴染みのない言葉ですが…。(^O^)

【推敲】の意味は『広辞苑』によると以下のようです。
【推敲】=(唐の詩人賈島(かとう)が「僧推月下門」の句を得たが、「推(おす)」を改めて「敲(たたく)」にしようかと迷って韓愈(かんゆ)に問い、「敲」の字に決めたという故事から)詩文を作るのに字句をさまざまに考え練ること。月下推敲。

香道では、推敲(すいこう)の故事に因む組香として【賈島香】(かとう香)があります。

◆香は四種
韓退之として 三包で内一包試
賈島 として 二包で無試
鳥宿池中樹として
僧推月下門として 二包で無試

※韓退之(かんたいし)=韓愈(かんゆ)

◆聞き方
試みを終えた後、
①韓退之と賈島の各二包計四包を打ち交ぜ、内から二包を炷き出します。
②同様に、詩句の各二包計四包を打ち交ぜ、内から二包を炷き出します。

詩歌をちこち 【賈島香】

鳥宿池中樹
僧敲月下門

|『三体詩』
|題李疑幽居  李疑(りぎ)が幽居(ゆうきょ)に題(だい)す  賈島(かとう)
閑居少鄰竝  閑居(かんきょ)鄰並(りんぺい)少(まれ)に
草徑入荒園  草径(そうけい)荒園(こうえん)に入(い)る
鳥宿池中樹  鳥(とり)は宿(やど)る池中(ちちゅう)の樹(じゅ)
僧敲月下門  僧(そう)は敲(たた)く月下(げっか)の門(もん)
過橋分野色  橋(はし)を過(す)ぎて野色(やしょく)を分(わか)ち
移石動雲根  石(いし)を移(うつ)して雲根(うんこん)を動(うご)かす
暫去還來此  暫(しば)らく去(さ)りて還(ま)た此(ここ)に来(きた)る
幽期不負言  幽期(ゆうき)言(げん)に負(そむ)かず

〔訳〕
しずかなわびずまい、隣り合う家とてなく、草むす径(こみち)は、荒れるにまかせた庭へとみちびかれる。
鳥は池の中の木立にやどり、僧がひとり、月の光の下に門をたたく(ひそやかなその音)。
橋を過ぎてなおも存する野のけはい、山中の雲のわく石を移して来てすえてあるのが目に入る。
しばらく他処(よそ)に行っていましたが、またここにもどって来ました、風雅のちぎり、決して言に違(たが)うことはありません。

*出典:村上哲見『三体詩 下』(朝日新聞社)

※推敲(すいこう)の故事については、ネット上に解説がたくさんアップされています。出版物では、遠藤哲夫著『出典のわかる故事成語・成句辞典』(明治書院)の記述が秀逸です。

推敲(すいこう)】-出典:遠藤哲夫『出典のわかる故事成語・成句辞典』(明治書院)-

[意味]詩や文章の字句をあれこれ考え練ること。
[解説]「推」は、おす、「敲」は、たたくの意。唐の詩人賈島(かとう)が、自分の作品の一句「僧は推(お)す月下の門」を「僧は敲(たた)く月下の門」に改めるかどうかを夢中になって考えているうちに、韓愈(かんゆ)の通りかかるのに行き当たり、韓愈の教えによって「推」を「敲」の字に改めたという故事にもとづく。
[出典]『唐詩紀事(とうしきじ)』
「島(とう)、挙(きょ)に赴(おもむ)きて京(けい)に至(いた)りしとき(=賈島が科挙を受けるために都にやってきたとき)、驢(ろ)(=ロバ)に騎(の)りて詩(し)を賦(ふ)し、僧(そう)は推(お)す月下(げっか)の門(もん)の句(く)を得(え)たり。推(すい)を改(あらた)めて敲(こう)と作(な)さんと欲(ほつ)し、手(て)を引(ひ)きて推敲(すいこう)の勢(せい)を作(な)す(=自分の手を引き寄せて、おしたりたたいたりの動作をしてみた)。未(いま)だ決(けつ)せざるに、覚(おぼ)えず大尹(たいいん)韓愈(かんゆ)に衝(あた)る(=うっかりと都の知事である韓愈の行列に突きあたってしまった)。乃(すなわ)ち具(つぶさ)に言(い)う(そこで賈島は今までのいきさつをくわしく話した)。愈(ゆ)曰(い)わく、敲(こう)の字(じ)佳(よ)し、と。遂(つい)に轡(くつわ)を並(なら)べて詩(し)を論(ろん)ず(=そのまま二人は馬のくつわを並べて詩のことを話し合った)。」

なお、『唐詩紀事』巻第四十に収められている[賈島]の上記該当部分の白文は次の通りです。

島赴擧至京騎驢賦詩得僧推月下門之句欲改推作敲引手作推敲之勢未決不覺衝大尹韓愈乃具言愈曰敲字佳矣遂並轡論詩

『出典のわかる故事成語・成句辞典』の書き下し文に従って、句読点を付けてみるのも一興かもしれません…。(^O^)