名所鵜川香

夏の風物詩の鵜飼が始まっています。
全国にその名を知られている岐阜・長良川鵜飼は例年5月11日から始まり10月15日まで行われているようです。
この長良川鵜飼には長い長~い歴史があり、宮内庁式部職の肩書を持つ鵜匠9人が居ることでも知られています。

そんな超有名な長良川鵜飼ですが、灯台元暮らしとでも言いましょうか、隣の愛知県に住んでいながら鵜飼舟に乗って鵜飼見物をしたことはありません。
専ら食べ方専門で、長良川河畔の「鵜匠の家 すぎ山」や「鵜の家 足立」で美味しいアユ料理をいただくばかりです。(^^)

実は、数年前まで鵜飼については、いくつかの疑問点がありました。
鵜舟が川下へ下る理由、篝火を焚く理由、船縁を叩く理由、鵜が鮎を簡単に?捕らえられる理由などです。
これらの疑問点は「鵜の家 足立」のHPで既に解決しております。2017.05.28、2017.06.02の「鵜飼香」でも紹介しました。

要点は、鮎の夜の性質として、「①石影で隠れている/②光を嫌う/③音に敏感である/④瞬間的に川上に走る」などがあり、篝火と船を叩く音により、驚いた鮎が川上に(ここがポイント!)逃げてくるのを鵜が捕らえるとあります。
納得です!

現在、日本各地で行なわれている鵜飼については、ネット上のWikipediaに詳しい解説があり、十数か所が挙げてあります。
山梨県笛吹市(笛吹川): 石和鵜飼
岐阜県岐阜市(長良川): 長良川鵜飼
岐阜県関市(長良川): 小瀬鵜飼
愛知県犬山市(木曽川): 木曽川うかい
京都府宇治市(宇治川)
京都府京都市(大堰川)
和歌山県有田市(有田川)
広島県三次市(馬洗川):三次鵜飼
山口県岩国市(錦川)
愛媛県大洲市(肱川)
大分県日田市(三隈川)
福岡県朝倉市(筑後川)
富山県富山市婦中地区(田島川):売比河(めひかわ)鵜飼祭として年1回

鵜飼と云えば長良川鵜飼のように川舟を用いる漁しか思い浮かばず、上記の鵜飼もきっと同様の漁法と思っていますが、昔ながらの浅瀬に人が入って鵜を操る徒歩(かち)漁も処によっては残っているかもしれません。
鵜飼の全国組織は作られていないようなので、各地の鵜飼の実態についてはよく分かりません。(^^)

※ヒメヒオウギ【姫檜扇】

ところで、鵜飼を題材にした組香に「名所鵜川香」があります。
鵜川は文字通り鵜飼の川という意味です。

全国の鵜飼の名所を題材にした組香と思われますが、多くの組香は江戸時代に創作されており、この組香もそうであると仮定すると、当時の鵜飼名所と現在の鵜飼名所とは幾分異なっているようです。
何よりも、歴史が長く全国にその名を知られた長良川が名目に引かれていないのは不思議です。
馴染みのない名称の川や呼称の変遷とも相まって、個人的には何だかモヤモヤ感が拭えない組香のように感じています。
尤も、組香創作の時点ではそうでした!と割り切れば、全く問題はありません。(^^)

【名所鵜川香】

◆香は六種
山城として 二包で内一包試
大和として 同断
近江として 同断
出羽として 同断
肥前として 同断
越中として 五包で無試

◆聞き方など
試みの香を終えて、出香十包打ち交ぜ炷き出します。
二炷開きにして記録に記します。
本香には一二三四五ウにて書きます。
銘々の聞きは六国の所にて記録に書きます。
五国(山城・大和・近江・出羽・肥前)は一包づつですが、越中ばかり五包にして客とするのは名所鵜川が多いことからです。

山城 大井川(大堰川)
大和 夏箕川
近江 田上川
出羽 最上川
肥前 玉島川
越中 鵜坂川
〃  﨑田川
〃  宇奈比川(ウナヒ川)
〃  比賣川(ヒメ川)
〃  叔羅川(シクラ川)

◆記録
| 一  ウ  五  ウ  ウ
| ウ  ウ  二  三  四

名 山城 越中 肥前 越中 越中 全
| 越中 越中 大和 近江 出羽

名 越中 越中 山城 越中 越中 四
| 越中 大和 越中 出羽 肥前

又、銘々の聞きを川にて書く場合は、本香を国名にて書きます。

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越中の五つの鵜川は、ネットで検索してみると、比定されていないところもあるようですが、現在の神通川、小矢部川、日野川などを指しているようです。

『萬葉集』には、鵜川を歌枕にして、天平時代の越中国司・大伴家持が詠んだ歌がいくつか収められています。

◎(うさか川)鵜坂川
4022 鵜坂川渡る瀬多みこの吾(あ)が馬(うま)の足掻(あがき)の水に衣(きぬ)濡れにけり
◎(さきた川)﨑田川=辟田川?
4158 毎年(としのは)に鮎し走らば辟田川鵜八頭(うやつ)潜(かづ)けて川瀬尋ねむ
◎(うなひ川)宇奈比川
3991 …… 宇奈比川 清き瀬ごとに 鵜川立ち ……
◎(ひめ川)比賣川=比売川

◎(しくら川)叔羅川
4190 叔羅川瀬を尋ねつつわが背子は鵜川(うかは)立たさぬ情(こころ)慰(なぐさ)に

なお、『萬葉集』には別の鵜川の歌もあります。

・(めひ川)婦負川=売比川
4023 婦負川(めひがは)の早き瀬ごとに篝(かがり)さし八十伴(やそとも)の男(お)は鵜川(うかは)立ちけり

比売川と売比川は似ているので、なんだかこんがらかりそうです…。(^^)

昔は生活上の生業として、日本各地の川で鵜飼が盛んに行なわれていたことが想像されます。
鵜飼の方法も、鵜舟による漁のほか、人が浅瀬に入って行う徒歩漁も多かったに違いありません。

ところで、俳人・芭蕉は旅の途中で長良川鵜飼を見物しており、句を残しています。実に意味深長な一句です。

おもしろうてやがてかなしき鵜舟哉