中止相次ぐ

新型コロナウイルスによる感染拡大を受けて、スポーツイベントやコンサート、そして文化行事等が相次いで中止される事態となっています。
茶会などにも影響が及んでいて、3月上旬・中旬に予定されていた名古屋城春姫茶会、森川邸茶会、そしてお香とお茶の会などが中止になりました。
名古屋・徳川美術館も休館するとの発表がありました。

参加予定の会もありましたが……、残念です。

※蕗の薹が顔をのぞかせています。

ひょんなことから「玉川」のことが気になり、少し調べてみました。
玉川といっても、歌枕として詠まれている六ヶ所の玉川「六玉川(むたまがわ)」のことです。
『日本国語大辞典』によると、以下の六ヶ所です。

①滋賀県草津市にある川。野路の玉川萩の名所
②東京都を流れる多摩川。調布の玉川
③宮城県塩竃市野田を流れる川。野田の玉川千鳥の名所
④京都府南部、綴喜郡井出町にある川。井出の玉川山吹と蛙の名所
⑤大阪府高槻市にある川。三島の玉川卯の花の名所
⑥和歌山県北東部、高野山奥院付近の川。高野の玉川

これら六カ所のうち、実際に見たことがある川は、東京の多摩川、井出の玉川、そして高野の玉川です。
陸奥の野田の玉川は遠方なので見ていませんし、野路の玉川と三島の玉川はどうやら現在流れていないようです。

勿論、全国に玉川と呼ばれる川は他にもあると思いますが、歌枕になっている上記の「六玉川」は別格のようです。

玉川について、ネットを検索していたところ、写真付きの面白いサイトがありました。
朝日新聞DIGITALの「ことばマガジン」>文字>観字紀行・「多摩」か「玉」か六玉川へ、というサイトです。
サイトのアドレスはこちら → http://www.asahi.com/special/kotoba/archive2015/moji/2011052300008.html%3Fpage=2.html

ところで、香道の組香に「玉川香」があります。

◆香は六種
萩として  二包で内一包試
調布として 同断
千鳥として 同断
山吹として 同断
卯花として 同断
玉川として 一包で無試

聞き方、記録の仕方等は略しますが、国々の名所・名物は次の通りです。

①近江…萩 (秋)
②武蔵…調布
③陸奥…千鳥(冬)
④山城…山吹(春)
⑤摂津…卯花(夏)
⑥紀伊…玉川

※ちょうふ【調布】=律令制の租税の一つで、調として官に納める布。たづくり。つきぬの。

引歌は以前「詩歌をちこち」で紹介した覚えがありますが、再度のアップとなります。

詩歌をちこち 【玉川香】

|①『千載和歌集』巻第四 秋歌上 281
|  権中納言俊忠かつらの家にて、水上月といへるこころをよみ侍ちける  源俊頼朝臣
あすもこむ野ぢの玉川はぎこえて 色なる浪に月やどりけり
〔大意〕明日も来てみよう。野路の玉川の両岸から川面に一様に萩花が枝垂れてゆれる。その枝先を超える、色を堪えた波の上に月が映っているよ。

|②『拾遺和歌集』巻第十四 恋四 860
|      よみ人しらず
玉河にさらすてづくりさらさらに 昔の人のこひしきやなぞ
〔大意〕多摩川に晒す手作りの布の、その「さら」というように、「さらさらに」、今更ながら、以前親しくしていた人が恋しく思われるのは、どうしたことか。

|③『新古今和歌集』巻第六 冬歌 643
|  みちのくににまかりける時に、よみ侍りける  能因法師
ゆふさればしほ風こしてみちのくの のだの玉河千鳥なくなり
〔大意〕夕方になると潮風が離れた海から吹いてきて、陸奥の野田の玉川に千鳥が鳴いているよ。

|④『新古今和歌集』巻第二 春歌下 159
|  皇太后宮大夫俊成
こまとめてなほ水かはむ款冬の 花の露そふゐでの玉川
〔大意〕駒を留めて引続き水を飲ませよう。山吹の花影の上に花の露まで落ち添うている井手の玉川を見ようために。

|⑤『後拾遺和歌集』第三 夏 175
|  正子内親王のゑあはせし侍けるかねのさうしにかき侍ける  相模
みわたせばなみのしがらみかけてけり うの花さけるたまがはのさと
〔大意〕見渡すと、一面に白波が立って作った柵(しがらみ)がかけてあるよ。卯の花が咲いているこの玉川の里では。

|⑥『風雅和歌集』巻第十六 雑歌中 1788
|  高野奥院へまゐる道に、玉川という河のみなかみに毒虫のおほかりければ、このながれをのむまじきよしをしめしおきて後よみ侍りける  弘法大師
忘れてもくみやしつらんたび人の たかののおくのたま川の水
〔大意〕(飲むなと注意してはおいたが)もしやそれを忘れてでも、汲んで飲みでもしたろうか、旅人が。高野山の奥の玉川の水を。

*和歌出典『新編国歌大観』(角川書店)
*大意出典『新日本古典文学大系』(岩波書店)①~⑤/『風雅和歌集全注釈 下巻』(笠間書院)⑥

※源俊頼(みなもとのとしより)
※能因法師(のういんほうし)
※藤原俊成(ふじわらのとしなり・しゅんぜい)
※相模(さがみ)
※弘法大師(こうぼうだいし)