故事・故事・故事

数ある組香の中で、著名な故事を題材にしたものは一体いくつあるのでしょうか。

関守香は、函谷関の鶏鳴の故事を題材にした組香。

賈島(かとう)香、玉章(たまずさ)香も、矢張り中国の故事から引かれた組香となっています。

それにしても、手を変え品を変え、よくぞいろいろな遊び方を創ったものだと感心します。

香道一口メモ・117【関守香】

函谷関の鶏鳴の故事を題に、鶏の声を聞くか聞かないかを香の聞きで表現する。関を開けさすために鶏を鳴かせ、「鶏」の香を聞き当てる側を孟嘗君方、一方は開門させないために香を聞き当てない関守方。この両組を設定して行う特殊な形式。推敲(すいこう)や玉章(たまずさ)の故事に由来する式も、その内容を知り得てこそ興味がわく。

※【推敲】と【玉章】の故事に由来する組香は、【賈島(かとう)香】と【玉章香】です。共に『香道の作法と組香』(雄山閣)に詳しい解説がなされています。

【賈島香】
◆香は四種
韓退之として 三包で内一包試
賈島 として 二包で無試
鳥宿池中樹として 三包で内一包試
僧敲月下門として 二包で無試

◆聞き方
試みの香を聞いた後、
①韓退之(かんたいし)、賈島(かとう)の四包を打ち交ぜ、内二包を炷き出します。
②次に、詩句の四包を打ち交ぜ、内二包を炷き出します。

[メモ]
・韓退之は、氏が韓、名が愈(ゆ)、字(あざな)が退之。韓愈もしくは韓退之。白居易を白楽天とも呼び表すのと同じです。なお、賈島は、氏が賈 名が島、字は浪仙。

・五言律詩「題李疑幽居」(賈島)
閑居少鄰竝
草径入荒園
鳥宿池中樹
僧敲月下門 僧は敲(たた)く月下の門
過橋分野色
移石動雲根
暫去還来此
幽期不負言

・【推敲】唐の詩人賈島が「僧推月下門」の句を得たが、「推(おす)」を改めて「敲(たたく)」にしようか迷って韓愈に問い、「敲」の字に決めたと云う故事から、詩文を作るのに字句をさまざまに練ること。(広辞苑より)

【玉章香】
◆香は四種
初雁として 四包で内一包試
帰雁として 同断
雁金として 同断
玉章として 一包で無試

◆聞き方
試みを聞いた後、出香十包(初雁・帰雁・雁金各三包と玉章一包)を打ち交ぜ、五包ずつ分けて一方を炷き出します。
この五包の内に玉章が出れば、この五包で終りとなりますが、出なかった場合は残しておいた五包を更に炷き出します。

[メモ]
・玉章が出れば、手紙が届いたことになり目的は達せられたことになります。従って、前半で出ればお終いになるようです。

・【玉章・玉梓】タマアズサ(玉梓)の変化した語。玉は美称。古代、手紙を梓の木などに結びつけて使者が持参したことから、転じて手紙、便り、文章。(広辞苑など)

・【雁の使い】(前漢の蘇武が匈奴に使者として行き久しく囚われた時、蘇武を帰国させるために、「蘇武からの手紙が天子の射止めた雁の脚に結ばれていた」と使者に言わせて交渉したという故事から)消息をもたらす使いの雁。転じて、おとずれ。便り。手紙。雁書。雁のたまずさ。(広辞苑など)