おんがく・うたまひ・もののね

先日、小耳にはさんだのが「音楽」の訓(よ)み。
今では誰しも<おんがく>と言うに違いありませんが、古代においてはどうだったのでしょうか。
ちょっとした興味を持ち、心当たりを数点調べてみました。

乙亥(1875?)に書き写したとみられる『四季雑香銘集』には、イロハ順[ヲ(オ)]の中に「音楽」の文字表記があります。
また『香銘大鑑』には、香銘として「音楽(おんがく)」が載っています。

『世界大百科事典』(平凡社)の【音楽】の項目に興味深い記述がありました。
該当部分を以下に抜粋します。

「明治以前の日本では、たとえば雅楽は寺社と公卿階級に属し、能楽は武家階級のもの、長唄や浄瑠璃は町民のものというように、音楽の各ジャンルは、社会的階層の中に個別的、閉鎖的に所属するという傾向が強かった。
吉川英士によれば、〈音楽〉という用語は、古く中国からもたらされたが、奈良朝ころまでは、表記するためにその文字を借りても、〈おんがく〉とは訓(よ)まず、〈うたまひ〉〈もののね〉などといった。次いで、平安初期ころから、〈おんがく〉という語が用いられたが、主として唐楽・高麗楽系統の器楽合奏曲を指した。」
※吉川英士(きっかわえいし)(1909~2006):音楽学者、文化功労者

なんと、奈良時代には「音楽」を<うたまひ><もののね>と訓(よ)んでいたというのです。

大伴家持が編集した『萬葉集』の中に、既に「音楽」の文字表記があります。
正宗敦夫『萬葉集總索引』(白水社)単語篇には、「音楽(ウタマヒ)」と記し、巻八1594の付記が示されています。
…皇后宮之維摩講終日供養大唐高麗等種種音樂
※正宗敦夫(まさむねあつお)(1881~1958):国文学者、歌人(正宗白鳥の実弟)

『源氏物語』にも何らかの記述があるに違いない…と思い、『源氏物語索引』を見たところ、<もののね>の記述はあるものの<おんがく><うたまひ>はありませんでした…。

最後に『日本国語大辞典』にある、おんがく【音楽】の[語誌]です。

①「音」は歌声、「楽」は楽器の発する音。古代では「音楽」は「楽」よりさらに狭義で、仏教の聖衆が謡い奏でる天上の楽、あるいは天井の楽を地上に模して荘厳しようとする法会の舞楽の意で用いられ、「音声楽(おんじょうがく)」が和文脈にみえるのに対して主に漢文脈にみえる。

②「今昔物語集」などの説話では天上の楽や法会の楽をいう「音楽」に対して世俗のそれを「管弦」といって区別している。

③明治初期でも宮内庁は雅楽の意に限定しており、「音楽」があらゆる音楽活動や形態の総称となったのは文部省の訓令によって音楽取調掛が創設された明治一〇年代以降である。

以上、「音楽」にまつわるエトセトラでした。(^^)

いつの間にか、公園のヒトツバタゴ(なんじゃもんじゃ)が満開です。

明日から、いよいよ三度目となる緊急事態宣言が東京・大阪・京都・兵庫に発令されます。(4/25~5/11)
新型コロナウィルスの感染拡大が収まらないようです。

一日も早く”コロナトンネル”の向うに出られる日が来るよう願う日々です。